20 / 36

20

催眠術ってなんだっけ。 幼稚園時代や、小学校低学年の時はそれは夢見たことだったなぁ。 空を飛べるだとか、壁をすり抜けるとか。 ちいさい時は何だってできるような気がしたんだ。 お姫様の魔法だとか、不思議な絵本。喋る小鳥に、秘密の抜け道。 自分の目には全部全部そう見えた。 人間は歳を重ね大人になる。大人になった瞬間、世界はガラリと姿を変える。 絵本は活字に変わり、小鳥は喋らないのが当たり前、秘密の抜け道には雑草が生い茂り、魔法は全てとけた。 世界が変わってしまったのが、悲しかった。 もうそんな思いはしたくないと俺は現実しか見ないことにした。 勉強だとか拗れる人間関係だとか、欲望にまみれたニンゲンだとか。 世界は面白くなくなり、色を失う。 魔法はとけ、白と黒に変わる。 そうして歳を重ねると、そんなことが当たり前になった。 この世界に非現実的なものはない。魔法なんてない。催眠術だって。 催眠術(まほう)ってなんだっけ。 催眠術(まほう)なんて存在しない。

ともだちにシェアしよう!