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緒方から目を離し、下を見る。清潔なシーツをぎゅっと握りしめた。
「もう、わっかんねぇんだよ...。お前が何考えてるか、俺のこと、どう思ってるか...」
どんどん声が小さくなる。最後らへんは彼に伝わってないかもしれない。
自分が急に、酷く小さく、不安定なベッドに座っている気がした。
視界の端で、彼が何かを言おうと口を開くのが見える。
「帰る」
早くこの場から立ち去りたくて、ベッドから身を乗り出す。上履きをはいて、ベッドから立とうとした。
「...あれ?」
俺の体は膝から床に崩れ落ちた。腰は抜け、足には力が入らず、おまけにガクガクと震え出すのだ。
「なんで...」
膝をさする。しかし震えは止まらない。
「どうしてだよ...!」
上からの緒方の視線が刺さる。本人にはそういうつもりはないのだろう。しかし俺にはその視線は痛くて冷たいものにしか感じられないのだ。
あぁ、緒方は俺のことを嫌っているのかもしれない。
そう思うと怒りは全て悲しみに変わった。ツーンとしたものが胸の奥を突き刺す。この場から逃げ出したいのに身動きすらとれない。目頭まで熱くなる。本当に自分が惨めなヤツに思えてきた。
「ハヤテ」
ああ、嫌だ。俺の名前なんか呼ばないでくれ。本当に惨めだ。
「ごめんな」
それは俺が1番聞きたかった言葉だった。その言葉を聞けば、自分の怒りを治められるような気がしていたからだ。
しかし、今の俺にはその言葉は怒りを静めるものにはならなかった。謝られたことで、友人という関係である俺と彼の距離が離れたような気がしたのだ。
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