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明らかに緒方は俺を見ていた。
木乃と話す(一方的に話しかけられる)ことが多くなり、話し終わってからロッカーに教科書を取りに行こうとすると必ず緒方と目が合うのだった。
それが嫌だった俺は木乃と話す場所を廊下に限った。
別に特別木乃と話したいわけではなかったが、無視をしても話しかけてくる彼には負けた。
それと、最近気になることが増えた。
何かというと、俺の催眠術にかけられていた右手の話だ。
木乃と絡み出してから何故か今になって右手がピリピリと痛み出したり、痒くなることが多くなったのだ。これもまた催眠術の副作用なのかと疑った。しかし、催眠術をかけられてからもう何週間も経っている。いくら何でも遅すぎるのだ。
最初は気になったが、生活に支障をきたす程でもなかったので、なるべく気にしないように日常を過ごした。
*
「ハヤテ」
懐かしい声が俺に向けられている。あたりを見回す。しかし声の主らしき人物はおろか、俺以外に存在する人物がいない。ただガランとした教室に俺1人が佇んでいた。
誰の声だったか。記憶をまさぐる。身近な人の声だった気がする。でも、その声は長らく俺には向けられていないような...。
「ハヤテ」
今度は声と共に声の主が目の前に現れた。...緒方千春だ。
俺は急にはっとして彼に背を向けた。そしてツカツカと教室を出ていこうとする。
しかしどこから回り込んだのか、彼は再び自分の目の前にいた。
「催眠術、またかけられたくなったでしょ」
彼はそう言って笑った。そんな彼を俺は追い越そうとする、その瞬間。俺の体は彼の手により壁に縫い付けられていた。
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