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なんて夢を見てしまったのだろう。最悪だ。 自分で自分が嫌になる。 夢の中まで彼に催眠術をかけられ、触れられ、それに、 反応してるだなんて...。 幸い、時間が経てば収まりそうな程であった。が、しかし。精神的ショックはかなりのものだった。ベッドに座り、頭を抱え込む。 ショックで気が付かなかったがなんだか右手もいつもより痛みが強い気がする。 現在は10月の日曜日、午前8時。今日は午後に合コンがあるのだ。しかし日曜日なのにも関わらず部活がある。部活帰りに合コンに行くつもりだが、 「ほんと最悪...」 今日は淡い期待を抱いていた日だったのに、一気に憂鬱な日へと姿を変えた。 洗面所に行き顔を洗う。秋にもなり、冷たさが増した水道水が皮膚の下まで刺激する。目を覚ますのには十分な刺激だ。 顔を上げると鏡に自分の顔が映る。前髪を濡らした雫がひたりと頬に落ちた。 「かっこ悪いなぁ...」 * そういえば久々に部活に行った。 最近遊んでばっかりだったから長らく顔を出していなかったのだ。 俺の所属するサッカー部は部員が少ない。高校の運動部でメジャーなのっていえばサッカー部やらバスケ部やらなのに珍しい。まぁ理由ははっきりしている。言わば弱小なのだ。 俺は昔からサッカーは習っていたが、ガチ勢って程じゃない。日頃の運動っていう軽い気持ちで入ったのだった。だから運動して気を晴らしたいだとか、リフレッシュしたいとかいう時にしか顔を出さない。先輩はとうに引退しているから俺を咎めるやつなんていなかった。 こんなやつがいるから、しっかり練習こなしても勝てないんだと思う。 俺がこんなやつでも部員だと思ってくれる同輩や後輩にはとても感謝していた。 同輩の部員にひょいっと手を上げる。 「おっ、今城いるじゃん。メズラシ」 「今日はリフレッシュ」 「ほー...」 今日はあの夢から逃れるために運動する。本当なら日曜日なんて絶対に部活に顔を出さない。本当に、そのためだけに。 練習のメニューは俺が最後に部活に出た時から変わっていなかった。しかし、アップや外周、キック練習などは、普段使っていない筋肉を動かし、俺の体力を心地よく削った。そんな疲れも今日に限っては快楽であった。 体を動かす快楽は今朝の夢や右手の痛みを忘れさせるのに十分であった。 汗水と共に流れ落ちて消えた。

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