7 / 12
第7話
それから俺はこの月下城を、浮遊城にして出現ポイントを決めて世界を巡らせる事にした。
同じ所に留まっていては魔王を思い出す。更に魔王と弟を思い出し、二人を見に行ってしまいそうだからだ。
そして人間界と"友好的"な繋がりを保つ為に、月に一度だけ人間界と売買をする事になった。
王族指定の商人が相手だ。商人は男で、背が俺より高く、物腰は柔らか。そして、何とも男の色気が漂う美丈夫だった。
……少々、お喋り好きではあるが。
そう。彼は毎回、俺と商売以外の短い会話を必ずするのだ。
「なぜこの城には貴方様以外はスケルトンのみなのですか?」
「……"生きる"者は煩わしい。だからだ。……今回も朝陽が差し、城が移動する前にこの城から立ち去れ」
「…………」
「……分かったな」
何とも……言えない会話だ。
他愛ない様な、俺を抉る様な……商人の質問。
会話内容を全て覚えている訳ではないが、ある日こんな質問を受けた。
―……"「貴方は元は"人間"で、無理矢理"魔族"になったのだと……聞きました。魔王を恨んでますか?」"
俺はこの質問を受けた時、諦めと何とも言えない惨めな気持ちが広がった。
「ふふッ……。俺は"魔族"になるのを自分で選んだんだ」
「……え?」
「俺は元は"人間"だ。だが、先代の魔王に"闇堕ち"を受けたから、今は"魔族"で"魔王"だ。
だから、この城で俺が生活するのは問題無いし、出るつもりも誰かに"譲る"つもりもない」
「……」
「……それに、世界が平和なら誰が……魔王に……納まっても、良いだろ……!
俺はここから出たくないし、出れなくもあるんだ」
「…………」
「……………………悪いが、帰ってくれ」
この時、碌に彼の持参した商品を見ず、俺からの物も出さずに彼を……帰した。
そして次の月、彼は普段通り俺と商いをしに来た。まぁ、"義務"という面が強いと思うがな。
ただし、その手には……
「今回は、個人的にお土産を持って来ました」
「そ、そのショコラは……!」
俺の大好物の……!!
「はい、王都で大人気だそうで。魔王様、人間界の嗜好品もなかなかですよ?」
「……そ、そうだな。嗜好品は心を豊かにする。そうだ、茶でも……飲んでいくか?」
前回の侘びを含んだ代物だろうか。
俺も……彼に悪い事をした。今回は茶でも出そう。
「はい、頂きます。魔王様と同じ空間で時を共に出来る事、大変嬉しく思います」
「……? お前、魔王相手にそんな事を言うなんて変わってるな……」
「そうでしょうか?」
ああ、それにしてもショコラに顔がニヤける。大好きなのだが、本当に食べるのは久々なのだ。
「俺は今、このショコラで気分が良い。土産の礼は何が良い? 出来る限り聞こう」
「…………その仮面を外して下さい……素顔の貴方様が見てみたい」
「……それは出来ない。……その願いは聞かない」
「では、なぜ、仮面を……?」
「俺は、自分の顔が嫌いだからだよ。こうしていれば、自分でも見なくて済む」
「…………」
「…………お前への礼は悪いが他の物を……俺が選んで渡そう。少し待ってろ」
「…………はい……」
ともだちにシェアしよう!