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第50話 友達の定義

見たい。 さっきの原因、見てみたいな。 どんなにエロいんだろう? クラスのみんながなにを騒いでいるのか、見たくて振り返った。 目の前には護の無表情な顔があった。 「やっぱり体調よくないよね。少し押したくらいで倒れこむなんて」 と、護。 「まだ、平気」 と、オレ。 「……なんでそう頑固なんだろうねぇ」 と、小さくため息をつく護。 オレの腕をとって、一緒に立ちあがった。 再度、護はまたしゃがむと、 「膝汚れてる」 と、護が言い、オレのズボンのホコリを軽くはたいていく。 「だいたいきれいになったね」 と、護がオレを仰ぎ見てきた。 その目には見覚えがある。 よく見知った目だ。 彼と同じ目でオレを見てきた。 ………………どうして。 護とは初等部1年生のときから友達で。 ずっと同じクラスだ。 中等部の寮は4人部屋で、学年ごとに部屋替えがあるのに、ずっと同室だった。 成績は常に上位で、頭がきれて、人望があって。 オレには過敏で過保護で、やさしくて世話焼きで。 なにかにつけて干渉してくる。 高等部に入ってからは、護はオレと少し距離感を持って接するようになった。 オレの部屋にはあまりこなくなった。 オレが恋人と過ごすことが多かったから、遠慮したんだと思っていた。 『学生のうちしか遊べないんだから。親元を離れて自由な生活をどうか満喫して下さい』 中等部の入寮のさいに、オレを学園に送りとどけて、彼はそう言ったのだ。 でも、違う。 きっと彼の指示で、だ。 オレに自由をあたえたふりをして。 ……しっかり監視付きだったんだ。 オレは見開いていた目をぎゅっと閉じてから、ゆっくりと開けた。 「護はオレの友達だよね?」 と、オレの声が少しふるえた。 「いまさら?」 と、護は鼻先で笑った。 「……答えて、護」 猜疑心が確信に変わる前に、自分の欲しい言葉をもらいたい。 「友達だよ。ずっと子供の頃から友達だ」 護が立ち上がって、オレの手を引いて歩き出した。 「保健室か?」 と、野間。 「熱、あがってきたみたいだから。あとよろしく」 と、護。 もうオレは抵抗する気力もなくて、護に連れられていく。 「桜井、本当に具合悪そうだね。へらへらした笑顔がないと、ほんと人形みたい」 と、陵くん。 『人形みたい』 『かわいい』より、よく言われていたフレーズ。

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