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第54話 神田さんがオレにやさしくする理由

「今はそんなふうには言いませんよ。江戸時代じゃあるまいし」 と、オレ。 「じゃあ学園(ここ)らしく、執事とか?」 「執事は教育受けていないとなれませんよ。まぁ執事見習いを連れている人もいるけど、ほんの少数。家から派遣されて連れだっているのは供人(ともびと)」 「供人かぁ。なんか風情があるね。執事よりそそるな」 と、笑顔の先生。 「……そそるって」 「僕はごく一般家庭で育ったから、自分のためだけに、つくしてくれる人間ていうのに憧れるなぁ」  「家政婦さんでも恋人でも、つくしてくれますよ」 「え~。家政婦と恋人を同列にするところがわかんないよ」 「どっちもつくしてくれるけど」 「有償と無償でぜんぜん違うってば」 お金のこと言ったら、お仕事になってしまうから、意味合いが違ってくるんですけど。 「愛情って言わないんですね」 と、オレ。 「愛情かぁ。桜井くんはいっぱいもらって、健やかに(はぐく)まれたんだよねぇ。なのに、とっかえひっかえ恋人替えてんだ?」 そんなの嘘ですよ。 と、言い返せたら気持ちいいんだよね、きっと。 「……生徒の恋愛事情とか調べてるんですか?」 「嫌だなぁ、人聞きの悪い。聞き耳たてなくても、きみや生徒会のことなんてほっといても耳に入ってくるよ」 「ただの噂話しです」 オレの恋人は、約2ヶ月ごとに入れ替わるシステムになっていたらしい。 別れを切り出した相手を、オレが引き留めれば、期間を延長してお付き合いが出来るけど、出来なかった場合は別れるというくだらない内容だ。 そのことを教えてくれたのは、いっこ上の元風紀委員長の神田(かんだ)さんだ。 神田さんは、オレが中等部のときからかまってくる先輩。 (※詳しくは龍ヶ崎×桜井シリーズ第1作目『飴』を参照) オレを気にかける理由なんて、わかりきっているけど。 神田さんのそばは、思ったよりも居心地がよくて突っぱねられない。 ちょっとでも『あの人』との繋がりを持ちたい自分がまだいる。 だから、神田さんと馴れ合っている。 だって、神田さんは『あの人』の弟だから。

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