57 / 67
第57話 スポーツドリンクじゃなくて経口補水液
手元の500ミリリットルのペットボトルを見た。
これ、床に置かれていた物だと思う。
だってさっき、両手でオレのことさわっていたし。
薄ピンク色のカーテンで仕切られた保健室のベッド。
天井にカーテンレールが設置されていて、ベッド周りを完全に覆うことが出来た。
確か4、5台はあったはず。
月曜日から、全部埋まっているとは思いたくないけど。
「隣だけ?」
と、小声のオレ。
「さぁ? 確認したの隣だけだから。大丈夫だよ。よく寝てたから」
「飲まないの?」
と、龍ヶ崎。
オレの手には、床に置かれていただろうペットボトル。
封を切ってないから汚くはない。
バレー部のときは、平気で体育館の床に置いてたジュースを飲んでたし。
体育館の床より、保健室の床のほうかだんぜん清潔なはずだ。
「飲ませて欲しいの?」
と、龍ヶ崎。
「おまえのほうが飲ませたいんじゃないの?」
「正解」
オレの手からペットボトルを取りあげ、キャップをひねった。
ペットボトルの口をオレの口に近づけ、
「ほら」
と、龍ヶ崎。
「へ?」
「喉かわいてんでしょ」
「……うん、まぁ」
口移しじゃないんだ。
自分で飲んだほうが、こぼさずに飲めるけど。
ペットボトルを受け取って、中身のジュースを飲んでいく。
「おいしい?」
と、龍ヶ崎。
「うん」
「脱水おこしてるね」
「え?」
「これO◯-1だよ。ふつうの状態で飲んだら、しょっぱく感じてまずいの。脱水状態だったら、おいしく感じるんだって」
ペットボトルを見たら経口補水液と書いている。
「CMのやつか」
と、オレ。
「あんたは体力ないのに薬きかないし。栄養剤の入った点滴か注射してもらったほうがいいよ」
「体力温存させないおまえのせいでな」
「久保田医院に行くんだろ? 送っていく」
そこは午後から寮で開業している内科の診療所だ。
ともだちにシェアしよう!