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第60話 誰でも知ってる龍ヶ崎の事情

「龍ヶ崎にも『供人』がいるよね」 オレからの唐突な質問に、 怪訝な顔をすることもなく、 「ふつうに世話人としてつけてるでしょ」 と、龍ヶ崎。 私立芙蓉学園は、世間では『お坊っちゃん学校』と言われている。 明治の初期に創設され、第二次世界大戦前は皇族や華族や財閥の令息が学ぶ学校の一つだった。 戦後は裕福な家庭の男子が通う学校として有名になった。 龍ヶ崎家は、明治維新後、華族の一員となった武家だ。 材木や生糸で財を築き財閥の一つになったが、第二次大戦後は財閥は解体された。 現代は医療分野を中心にグローバルな企業展開をしている。 そして、龍ヶ崎はそのグループ企業の創始者の直系で嫡男。 いずれはグループのトップに君臨するはずだ。 誰それのバックグランドには興味がなくても、このくらいの情報は調べなくても、しぜんとオレの耳にも入ってきていた。 中等部3年の二学期からの見映えのよい転校生の素性は、またたくまに広がった。 ちなみに噂だか、ニューヨークで飛び級をして、高校までの単位を取得しているというのもあった。 それが本当なら、なぜ、わざわざ日本で中学生をしているのか、意味がわからなかった。 龍ヶ崎とは、お互いの家の話しなど、したことがない。 オレも龍ヶ崎と同様にグループ企業創始者の家の子供だが、年の離れた姉兄がいる末っ子の自分とは立場がぜんぜん違っていた。 自分はグループのトップに立つことはない。 家族からは、ないがしろにされていないけど。 むしろ、かまわれまくって過ごしてきたけど。 必要とされていないわけではないけど。 龍ヶ崎とオレでは、背負っているものが違いすぎた。

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