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第61話 狭い世界しかしらない
「龍ヶ崎の供人って、友達っぽいの? それとも執事っぽいの?」
と、オレ。
「珍しく人のことを気にすると思ったら、そんなこと」
はぁ、と小さく息を吐いた龍ヶ崎。
「ぼくのは秘書に近いかな。子供のときからそばにいて。いずれは、ぼくの片腕となって働いてくれる存在だよ。沢木はどうみても家が選んだお友達だよね。将来、悠人と共に働いたりしなさそうだね。……あんたって、現場指揮とかしないで、座っているだけの役員とかしそう」
失礼な。
内心を言い当てられてるけど、人に言われるとしゃくにさわる。
「うちには『働かざる者食うべからず』ていう家訓があるの。たいして家の役には立たなくても、なんらかの仕事はするよ」
と、オレ。
「桜井道隆 は、あんたを働かす気なんてなさそうだけど」
とうとつに、父親の名前がでた。
首をかしげたオレに、
「……あざといけど、自覚なしだもんなぁ」
と、鼻先で笑った龍ヶ崎。
「は?」
あざとい?
オレが?
「桜井さんには、パーティーで何度か会ったことがあるよ」
と、龍ヶ崎。
「……へぇ」
「そういう集まりに一度も出たことないよね、悠人は」
「必要ないから」
正確には、家に必要とされていない。
「さすが桜井家の子供だね。ぼくなんか子供の頃から人脈作りに駆り出されてるよ」
龍ヶ崎は次代の総帥だから、顔繋ぎのために社交場に入り浸るは必須。
龍ヶ崎の指がオレの頬にふれ、手のひらで頬をおおわれた。
左手はつかまれたままだ。
「ごめん……言いすぎた」
と、龍ヶ崎。
「気にしてないよ」
本当のことだし。
「社交場にいなかったのは、どうして?」
と、龍ヶ崎。
「行く必要がない、って言われた」
「桜井さんは、悠人は体が弱くて人混みは体に負担がかかるから、と言ってたよ」
早産で生まれたオレは、家族や家の者にかなり過保護に育てられた。
子供の頃は、発育が悪く小さい体で虚弱体質。
よく熱を出していたし、たくさん人がいるところは、苦手でよくもどしていた。
幼稚園は少人数制だったので、吐くことはなかったが、熱は出てよく休んでいた。
初等部に入ってからは、発熱や嘔吐も少なくなって、学校も欠席が減り、運動も制限なく出来るようになった。
けど、財政会の集まりとかの社交場には、顔を出してはいない。
個人的に父さんたちの友達や知人には会っているけど、少人数にすぎない。
初等部3年のときには、スポーツクラブのバレーボール部に入るくらいの体力はあったのに。
中等部を経て高等部のいままで、自社グループの周年パーティーにすら、出席していない。
社交場に行ってみたい。
と言えば、家族に付き添って華やかな席に顔出しが許されるのか?
だめだ。
と、拒否されるのが怖くて、いまさら自分からは言えなくなってしまった。
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