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第63話 まさかの恋愛未経験者

龍ヶ崎がオレの頬から手を外し、頭をぽんぽんとさわってきた。 子供にするような仕草に、その手をはじいた。 「そんなに友達が欲しいんだったら、ぼくが友達になってあげるよ」 と、龍ヶ崎。 「友達はエッチしない」 「じゃあ恋人になってあげる」 「は?」 友達と恋人を同列にするのが、わからない。 お互いの気があって、相手を好きになるところは似ているかもしれないけど。 肉欲が生じなくてずっと続くのが友情で。 そばにいて幸せいっぱいの甘い時間を共有するいっぽうで、せつなくて痛くて苦しいこともあるのが恋情。 龍ヶ崎とは肉欲にまみれているけど、恋愛はしていない。 惰性でのセフレ関係持続中。 「好きじゃないのに……恋人になんてなれない」 と、オレ。 「気持ちはいらないよ」 「はあ?」 それじゃあ、セフレと変わらない。 「恋人、いたことあるの?」 オレの素朴な疑問に、 「ないよ」 と、即答した龍ヶ崎。 セックスの相手は掃いて捨てるほどいるのに、恋人という立場の人はいなかったのか。 人を好きにならない、のか。 人を好きになれない、のか。 いずれは総帥になり家の利になる人と結婚する、からか。 「ぼくは好いてくれる子の好意に、犬や猫をかわいがる感覚で、好きになった気になったりしないから」 と、龍ヶ崎。 龍ヶ崎の強い視線に気圧されそうになった。 「…………ペットみたいにあつかってないよ」 と、オレ。 「ちゃんと、人を好きにならないのは悠人の方じゃないの?」 「人と付き合ったこともないのに、言われたくない」 「ふられたのにいつまでも引きずってて、女々しい」 「別にひきずってねーよっ!」 「声あらげる時点でアウト」 龍ヶ崎の人差し指が、オレの唇の前でたてられた。 静かにしろ、という意味か? しゃべるな、というジェスチャーか? 「……しんどいのは……もう、いいよ」 と、オレはぼそりとつぶやいた。 「それがいいんじゃない」 と、龍ヶ崎が小さく笑った。 龍ヶ崎の指がオレの唇をなぞってから、髪にふれた。 髪を手ぐしですいたあと、離れていった。

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