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透と彰広は幼馴染みだった。
高校に上がる頃には、透は真面目だが平凡な生徒に、彰広は地元では名の知れた不良になった。
彰広は十代にして大人の男の色気を持ち、色事に関しても早熟でお盛んだった。
一方、透は初心で奥手だった。
性格も見た目も正反対の二人だったが、気付けば誰よりも息の合う親友になった。
どちらかというと、彰広の方が透の側にいることを望んでいた。
高校を卒業して、透は昔からの夢だった教師を目指して地元を離れ進学した。
大人になるにつれ、二人の道は大きく分かれ彰広とも自然と疎遠になった。
噂では彰広はヤクザになったと聞いていた。
数年後。
透は念願叶って小学校教師になっていた。大変な仕事だが、やり甲斐があった。
その日は仕事納めだった。正月休みで学校から解放され、一人暮らしの透は今年は帰省せずダラダラ過ごそうと決めていた。
そんな年の瀬に、彰広が七年ぶりに透の前に現れたのだ。
彰広は十代の頃よりも更に色気が増し、長身の逞しい体躯に黒いコートが映えて、魅力的な大人の男になっていた。
「変わらないな、透は」
逆に自分は高校生のときとあまり変わっておらず、彰広の懐かしさを含んだ言葉に、透は気恥ずかしくなった。
突然訪ねてきた彰広に驚いたが、久しぶりに会えて嬉しかった。
透は彰広に誘われて、二人で食事に出かけた。
彰広の行きつけらしい上品な小料理屋の個室で懐かしい話に花を咲かせた。
「透、覚えてるか?」
「え?」
「お前のファーストキスって俺だったろ?」
一度だけ……透と彰広はキスをしたことがある。
あまりに奥手な自分をからかって彰広が触れるだけの口付けをしたのだ。
まるで子供同士のママゴトのような接吻だった。思い出した透は頬を赤らめた。
「!?」
彰広は透の手を軽く握り、指先で手首をなぞった。
「なぁ、この後……俺の部屋に来ないか?」
あのキスを覚えているなら今夜はこのままついてこい……と。
透は27になった今でも色事には奥手だが、もう子供ではない。
彰広の誘う声色に、それがどんな意味を含んでいるかは感じ取れた。
彰広の手はほとんど力が入っていないくらいの羽毛のような軽さで透に触れていた。
それが無理強いはしない。いつでも引き返せると感じさせた。
昔から彰広は透にだけは無条件に優しかった。
そのせいだろう。透は彰広の手を握り返し、こくりと頷いた。
───その夜……あの部屋で手錠に繋がれて、壊れるほどに犯されるなど夢にも思わなかった。
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