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第3話 幼なじみ

鍵を取り出しながらアパートの階段を踊り場まで 上りきった時、 自分の部屋の玄関前に誰かがしゃがんでいるのが 見えた。 思わずビクッと立ち止まる慎之介。 その人物が身に着けているヨレヨレのジャージ上下は いかにもホームレスに見えたからだ。 しかし、良く見りゃそれは ―― 「あ、おかえりぃー、慎ちゃん」 3年前、偶然再会した幼なじみ、 桐沢……(イヤ、こいつは里親と養子縁組して ”和泉【いずみ】って苗字になったんだっけ) 和泉 洵 ―― 通称”マコ” 「何だよー、来るなら来るで、電話かメール寄越せ  よな」 「アハハハ、着いたらするつもりだったんだけどね。  待ってる間に寝ちゃって」 ***  ***  ***   部屋へあがりながら、洵の近況を聞く。 「―― で、その後の感じはどうだ?」 「う、ん……痛し痒し、ってとこかな……」 「なんだ、そりゃ」 「想像以上に先生方からの風当たりが強くってね……」  洵は関東でも5本の指に入る有名進学校の2年だ。 数ヶ月前、何者かの策略に嵌まり”カンニング”の 濡れ衣をきせられ処分保留のまま自宅謹慎していたの だが、その後の調査で真実が明かされ。 学業に復活出来たはいいが、 洵のこの様子では、あまり幸先はよろしくない ようだ……。 「―― あ、そうそう、誕生日おめでとう」 と、綺麗にラッピングされた小さな箱を差し出して 来た。 「なんだよ~、そんな気ぃ使わんでもえぇのにぃ」 と、言いつつも、慎之介の目尻は下がり、 とても嬉しそう。 「あ、えっと、気に入って貰えるといいけど」 「……開けていいか?」 「もちろん!」 目をキラキラ輝かせ、ラッピングを丁寧に解く 慎之介は子供のようだ。 やがて、その全容を現せたプレゼントに 慎之介は更に頬を紅潮させた。 「うっ、わぁぁ……コレ、前から欲しかった ダイバーズウオッチ……ありがとな、マコ。 大事に使わせて貰う」 趣味は”仕事”と言い切るほど、 ワーカーホリックな慎之介だが、 店のオーナーに誘われ初体験した スキューバダイビングにすっかりハマり、 使い手のいい腕時計が欲しいと口癖のように 言っていたのだ。 洵は2人で買い物に行く度、 慎之介がこの腕時計を見ていたのを覚えていて、 次の誕生日には絶対コレを贈ろうと心に決めていた。 約半年分のお小遣いを注ぎ込んだ甲斐はあった。 大好きな慎之介に喜んで貰えたのが一番嬉しい。 ***  ***  ***

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