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第3話
明け方、ようやく解放されたサシャは死んだように眠っていた。
夕刻になって目覚めたとき、魔術士は部屋には居なかった。
ギシギシ軋む体を気怠げに起こす。
一体、何日……いや何週間経ったのだろうか。
連日連夜、抱かれて日付けの感覚が無い。
ベッドの端に座った。
ぼんやりと両腕を見つめる。
サシャの両腕、臍の周り、鎖骨から肩先にかけて、トライバルな紋様のタトゥーが刻まれていた。
絡まるツタや華の花弁のようなソレは、民族的で美しかった。
初めて抱かれた満月の夜、屋敷に連れ帰られて、魔術士の手によって刻まれたものだ。
この呪いのせいで魔術士を傷付けることはできないし、魔術士の許可がなければ、屋敷の外へ出ることもできない。
───それに、自分の命を絶つこともできない。
誇り高き狼の血族であったサシャが力を失い、陵辱されたことで自殺してしまわないようにと。
自分の命すら、自由にできなかった。
どれだけ抱かれようとも、愛を囁かれようとも、サシャはクラウスの愛を拒み続けた。
陰鬱とした気持ちでベッドに横たわっていると、扉が開いた。
寝室に入ってきた魔術士をサシャは気怠げに見上げた。
クラウスはサシャに微笑みかけて歩み寄り、その唇にキスをした。
「おはよう、サシャ。とは言っても、もう夕刻だけどね」
クラウスはいつでも嬉しそうにサシャに微笑む。
こんな不毛な毎日で何がそんなに嬉しいのか、サシャには理解できなかった。
「さあ。これを着て。」
クラウスは黒に金糸の刺繍の入った長衣をサシャに渡した。
「……」
サシャは無言で長衣に袖を通した。
サシャを立たせて、クラウスは前を合わせて金のサシェ(腰紐)を巻いた。
サシャの象牙の肌を引き立たせる黒に、瞳の色に合わせた金色。
自分の見立てにうっとりとして、再びサシャに口付けた。
今度は深く、舌を絡めて。
「ん、は……ぁ」
たっぷりと唾液を飲ませ、唇を解放して、魔術士は告げた。
「君にお客人だ」
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