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第6話
───あれから何度目かの満月が終わろうとしていた。
サシャの瞳のように、美しく輝く見事な満月だ。
だが、サシャは二度と狼に変わることはなく、切なげに満月を見上げていた。
この屋敷に囚われてから、一度も外に出ていない。
魔術師に夜毎日毎、抱かれて過ごしていた。
サシャの体は、すっかり男に抱かれるのに慣れてしまった。心だけは拒否し続けながら。
情事の後の気怠い体で窓辺に立ち、サシャは月と同じ金色の瞳に満月を映して佇んでいた。
そんなサシャを、ベッドヘッドにもたれて座る魔術師が暗い瞳で見つめていた。
翌日、昼過ぎにクラウスがベッドで眠るサシャを起こした。
「ん……」
「起きて、サシャ」
昨夜は遅くまで月を眺めていたので、眠ったのは夜明け近くだった。サシャは眠たげな瞼をどうにか上げた。
「おはよう。サシャ」
いつものようにクラウスがサシャにキスを落とす。
「サシャ。実はこれからお城へ行かなくちゃいけない。帰りは明日の朝になるんだ」
クラウスはこれでも王国一の実力の持ち主で、王のお抱え魔術師でもあった。
サシャは今夜はひとりになれると知り、心の中で安堵の息を吐いた。
「サシャに寂しい想いをさせたくないからね……これを残していくよ」
クラウスの手には綺麗な蔦模様の入った小瓶があった。
訝しげに見ていたら、シーツを捲られ、裸身を露わにされた。
「……! 何を!?」
伏せに押さえられて、尻を高く上げさせられる。。
「サシャ。ひとりでも退屈はさせないよ」
クラウスが手にした小瓶の蓋を片手で器用に外した。
サシャは顔を捻って、背後を見上げた。そして、小瓶から這い出したモノを見て凍りついた。
「ひっ!!」
這い出てきたのは、暗い青色をした蟲だった。
長さは20センチ程でいも虫のようにウネウネと動き、小さな脚が産毛のようにびっしりと左右に生えていた。
「な、なにっ!?───ひぃ!」
蟲は小瓶から這い出て、サシャの尻にボトリと落ちた。
その感触にサシャの全身は総毛立った。
「離せっ!! やめろ!! 何をッ……!?」
蟲は小さな脚をワサワサと蠢かし、サシャの尻の穴を目指した。
「───っひぃ、い!!」
魔術師の目的に気付いて、サシャが血の気を引かせて硬直した。
「やめろ!! やめてく……ッ! 嫌だぁあああッッ!!」
粘液でも出しているのか、にゅるりと蟲がサシャのアナルに入り込んだ。
「ヒ……! ヒィ……ッ!」
あまりのおぞましさに、サシャの体がガクガクと痙攣する。
震えるサシャの体を表に返し「こっちにも、ね」と、クラウスは小瓶からもう一匹、蟲を落とした。
「ぅあ! 嫌だッ!! いやぁあッッ!!」
クラウスは暴れるサシャの両手を一掴みにして押さえつけた。
蟲はウネウネと這い、今度はサシャのペニスに絡まった。
「いや! 嫌だ! 嫌ッ! 嫌ぁ───ッ!!」
細い尿道に器用に頭をねじ込み、サシャの体内の奥深くへと浸入していった。
クラウスが手を離しても、蟲が体内で蠢く異様な感覚にサシャは動くことができず、目を見開きガクガクと痙攣していた。
「あ……あ……ッ!」
クラウスは優しくサシャの頬を撫でた。
「明日の朝には戻るから。いい子で待っていてね」
その言葉にサシャがハッと我に帰る。
クラウスはこのまま、アナルと尿道に蟲を浸入させたままでサシャを残して行くつもりなのだ。
「い、いやだっ!」
サシャは必死でクラウスに縋り付く。
「……嫌だ!! こんな……取ってくれっ……た、のむから……!」
「サシャ」
魔術師は優しげに微笑み、サシャに口付けた。
そっと唇を離して、サシャにとってら死刑宣告にも似た言葉を告げた。
「明日の朝には戻るから。今晩は楽しむといい」
「ひ、嫌だ!……行くな!……クラウスッ!!」
サシャが悲鳴のような声音で、己の名を呼んだことに魔術師はゾクリとした。
抱きたいという欲求が首をもたげたが、どうにか抑えた。
クラウスは縋り付くサシャの手をするりと解き、未練を絶ち切るように背を向けて部屋を出た。
サシャはベッドの上で身悶えながら、扉に鍵をかける絶望的な音を聞いた。
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