7 / 10
第7話
魔術師は城へ向かう馬車の中で、残してきたサシャを想った。
サシャの血を入れ替え、狼の血族から人間へと変化させることに成功した。
血族との繋がりも断ち切った。
呪いで屋敷に閉じ込め、誰にも見せずに、夜でも昼でも愛し続けた。
───愛してほしいわけじゃない。
サシャにも伝えたが、それは魔術師の本心だった。
サシャを完璧に手に入れたいのだ。例え愛されなくとも、自分の手の中に閉じ込めてしまえれば、それでいい。
サシャを作り変え、行き場を無くして。完璧に囲ってしまえば。
だが、ある時。魔術師は気付いた。
ある日、黒い長衣を着て窓辺のソファに気怠げに座るサシャは、窓の外をぼんやりと見ていた。
だが一瞬、その金色の瞳に鋭い獣の輝きが戻った。
窓の外を見ると、野ウサギが走り去っていくのが見えた。
狼だった頃のサシャは狩りが好きで、満月の夜には本能のままに森を駆け抜け、己の牙で獲物を味わった。
一瞬だが捕食者の輝きが、サシャの瞳に戻ったのだ。
その日は、満月だった。
サシャは狼に変わることはない。
それでも月が満ちるのと共に、狼としての誇りや本能を取り戻すのだ。
新月の夜には諦めたように素直に体を開き、甘く鳴くが、満月の夜は徹底的にクラウスを嫌悪し拒んだ。
───気高い魂までは、変えることができない。
その事実は魔術師の歪んだ愛を更に歪ませた。
ふと、美しい唇に微笑を浮かべて、クラウスは悶え苦しんでいるだろうサシャを思い浮かべた。
「あ、あ、ぃやぁあああ!!……アッ! いやだぁあ!!」
取り残されたサシャは苦し気に床をのたうち回っていた。
尻の穴の奥深くに潜り込んだ蟲が、ウネウネと蠢めき、内部からサシャを責めているのだ。
「あ、あ、うぅううあ!……や、めろぉ……嫌だ! いやっ!……ヒィイッ」
這うようにして、扉に手を伸ばし、ガリっと引っ掻いたが……
「あ! いやぁああ────ッッ!!」
尿道奥深くの蟲も蠢きはじめた。
ガクッ! ガクッ! と、サシャの痩身が大きく痙攣する。
「ひ! やぁ……クラウス……クラウスッ!……あ、あぁああ……!」
おぞましい蟲どもに責め苛まれて身悶えるサシャは、無意識に魔術師の名を呼び、救いを求めた。
サシャは泣いて震え、身悶え、甘い拷問のような蟲達の責め苦に一晩中、鳴き続けた。
ともだちにシェアしよう!