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琥珀の夜
夜になり、部屋の灯りがオレンジ色の間接照明に変わった。
犬塚は一人、ベッドで眠っていた。
ドアの開く音がして、反射的に身を起こした。もともと眠りは浅い。
警戒してドアの方を見れば、竜蛇が部屋に入ってきた。
「やあ、犬塚。起きてたの?」
竜蛇はジャケットを脱いで、ソファにごろりと寝転んだ。長い脚をひじ掛けに乗せて、シャツのボタンを外して前を緩めている。
「残念。寝顔を見てやろうと思っていたのに」
犬塚は不審げに眉根を寄せた。
───酒の匂い。酔っているのか?
「友人と飲んできてね。お前は悪趣味だと言われたよ」
「……実際、悪趣味だろうが」
犬塚の答えに、ハハッと珍しく歯を見せて竜蛇が笑った。
「言うね。犬塚」
竜蛇は目を閉じて、それきり黙ってしまった。
───眠ったのか?
相当飲んできたらしい。
今なら隙だらけだ。ゴクリと犬塚が唾を飲み込んだ。
───今なら、殺せる?
足音を消して、そっと竜蛇に近付く。
琥珀の瞳は瞼に隠されていた。穏やかな寝息が聞こえる。
犬塚は息を殺して、竜蛇の寝顔を伺う。
相変わらず、整った美しい顔をしていた。
わからない。この男は謎だ。
酷いことをする男のはずなのに、さっきは無邪気な笑顔を見せた。
わからない。俺にはこの男が理解出来ない。
目を閉じたまま竜蛇が笑った。
「犬塚。殺るなら早くしろ。バレバレだぞ」
「!?」
犬塚はビクリとして、ソファから離れた。
竜蛇は上体を起こして、犬塚の方を向いた。
「……犬塚」
あの琥珀の瞳でじっと犬塚を見ている。
間接照明の下、竜蛇の瞳は本物の琥珀のように鈍い輝きを放った。
「犬塚」
「……なぜ、呼ぶんだ」
竜蛇の声の甘い響きに犬塚は戸惑う。こんな声で名前を呼ばれるのは初めてだった。
「お前の眠りの邪魔をしてしまうね」
ふっと微笑んで、竜蛇はソファから立ち上がった。
「おやすみ。犬塚」
そして、あっさりと部屋を出て行った。
───なんだったんだ……?
一人になった犬塚はしばらくの間、部屋で立ち尽くしていた。
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