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乗馬鞭
犬塚の熱が下がり、肩の痛みも取れた頃、いつものように竜蛇が部屋に入ってきた。
「やあ、犬塚。肩の調子はどうだ?」
ベッドの上に座っている犬塚の元に、まっすぐ歩み寄る。
しばらく竜蛇は何もしてこなかったので、犬塚は油断していた。
「……ッ!?」
竜蛇は素早く犬塚を伏せに倒して、両手首を頭上で一纏めに掴んだ。
犬塚の腰を跨ぎ、体重をかけて押さえつけた。
「おい、犬塚。いくらなんでも油断しすぎだ」
あまりにも簡単に組敷けたので、竜蛇は苦笑いだ。
「ッッ!!……なっ……くそっ!!」
あっさりと押さえつけられ、竜蛇に笑われた犬塚の顔が屈辱に歪む。遅れて暴れだしたが、すでにがっちりと押さえ込まれていた。
竜蛇はベッドヘッドの中央あたりの壁に触れた。
また壁にスッとラインが入り、20センチ平方にスライドした。
カチャリと無機質な音をたてて、鎖と黒革の手枷が押し出されてベッドに垂れた。
「何を!?……あ!」
犬塚の両手首を手際よく手枷で拘束して、竜蛇は一度ベッドから降りた。
鎖は壁に繋がっているので犬塚の両手首は頭上で拘束されてしまった。
「くそっ! 離せ! こんなもの……ッ!!」
犬塚は起き上がり、壁を足裏で強く蹴って、壁から鎖を引きちぎろうともがいた。
手枷にも噛み付いたが、無駄でしかない。上質な本革製で頑丈に作られており、特殊なベルトは自力では外せない。
竜蛇は再び壁に手のひらを当て、スライドした引き出しの中から同じデザインの鎖のついた黒革の足枷を二つ取り出した。
「くそ野郎っ!!」
「口が悪いね、犬塚」
竜蛇が子供を叱るような言い方をして、犬塚の足首を掴み、ぐっと引いた。
「やめろッ!! 離せ! このっ……!!」
暴れる犬塚に竜蛇は声のトーンを落として言った。
「犬塚」
その低く冷たい声色に、犬塚がビクリと動きを止めた。
「また関節を外されたいか? 脱臼はクセになると厄介だぞ」
竜蛇の冷たい声と冷めた蛇の目に射ぬかれて、犬塚の体が硬直する。
「そう、いい子だ」
竜蛇は唇にいつもの微笑を戻して、犬塚の足首を引っ張り足枷をはめた。鎖の先はベッドの脚に繋いだ。
犬塚は両手を挙げた状態で、両脚は大きく開いて、仰向けに拘束された。
竜蛇は舐めるように犬塚の裸身を見つめている。
犬塚は悔しげに竜蛇を睨み返した。
竜蛇は犬塚の足元から、再び壁の方へと移動した。
「ええと」と、指先を遊ばせながら彷徨わせて、白い壁に手のひらで触れた。
また別の引き出しが開いた。
中から竜蛇が手にして出したのは、乗馬鞭と黒革の口枷だった。
犬塚は顔色を無くして、それを見上げた。
「嫌だっ!! いや……んぐ、ぅう!!」
竜蛇は嫌がる犬塚の抵抗を物ともせず、黒革のベルトを噛ませ、口枷を固定した。
犬塚はふっ、ふっ、と荒い呼吸をして、竜蛇を睨みつけた。
竜蛇は犬塚と視線を合わせたまま、ジャケットを脱いで袖を捲った。
そして、乗馬鞭を手にしてベッドサイドに立つ。この男は鞭が似合う。
優雅で気品さえ漂わせているが、犬塚にとってはおぞましいだけだった。
竜蛇は犬塚の瞳を見つめたまま、鞭の先で犬塚の足首にそっと触れた。
柔らかなタッチで、引き締まったふくらはぎから白い内腿を撫で上げる。
「……ッッ!?……んっん!」
犬塚の裸身がひきつり、ガチャリと拘束具が鳴った。
そのまま鞭の先は這い上がっていき、微かに乳首に触れた。
犬塚の痩身がビクリと跳ねる。
乗馬鞭の角の部分が乳首を刺激していた。
犬塚は鞭の戯れから逃れようと暴れて、ガチャガチャと拘束具が鳴った。
「ん!……ふ、ぅ」
ふい、と鞭が胸の尖りから離れた。
今度はほどよく引き締まった腹筋をたどり、鼠蹊のきわどい部分を撫でた。
「……ッッ!」
触れるか触れないかの危ういタッチで、犬塚のペニスを微かに撫でた。
犬塚を見つめる竜蛇の琥珀の瞳は硬質な輝きを保ち、欲望は感じさせなかった。
最後にするりと太ももを一撫でして、鞭は離れた。
「ふ、ぅ……」
犬塚がほっとしたように、力を抜いた瞬間。
───バシィッッ!!
竜蛇が犬塚の内腿に鞭を振るった。
「んんぅッッ!!」
柔らかな内腿が赤く染まる。
痛みと屈辱に犬塚が竜蛇を睨み上げた。
二度目だ。竜蛇に鞭を喰らうのは。
───くそっ! どうしてこんな奴に好きにされてしまうんだ!
悔しげに睨み続ける犬塚を、硬質な瞳で見つめ返しながら、竜蛇は手にした鞭をもう一方の手でするりと撫でた。
そして、再び……
ヒュッと空を切る音を立て、柔らかな内腿を打ち据えた。
「ん、ぐぅ!!……ううっ!!」
パシン、パシンと、乾いた音が白い部屋に響いた。
鞭の音と、犬塚の体が悶える度に拘束具が鳴る音がしばし続いた。
竜蛇の手が止まったときには、犬塚の内腿は鞭の痕で赤く腫れていた。
「……ん、ぅう……ん」
息を荒げて犬塚はぐったりとベッドに身を沈めた。
以前のように全身を鞭打たれたわけではない。
内腿の柔らかで、弱いところだけを重点的に責められた。
犬塚の象牙色の肌が鞭で打たれて赤く染まり、ドクドクと熱を持っていた。
「……ううっ!!」
散々、鞭で打たれて熱を持った内腿に竜蛇の冷たい指が触れた。
ひんやりとした感触が熱を持った肌に心地よかったが、その触れ方に恐れを感じた。
膝の横から、ゆうるりと内腿を舐めるように撫で上げ、鼠径部分をなぞる。
竜蛇の冷たい指がそこを何度も往復した。
蛇が這いまわるような感覚に犬塚は肌を粟立たせる。
「ん、んぅ……ふ、うう!」
犬塚は背を反らせ、拘束具がガチリと音を立てた。
うっすらと汗をかき、美しく筋肉のついた裸身がのたうつ様はエロティックだった。
竜蛇のいたずらな指が内腿から陰嚢をなぞり、確かめるように犬塚のペニスを掠めた。
「んうっ!!」
「犬塚。またココをこんなにして」
今度はきゅっと犬塚のペニスを握った。
ソレはすでに熱く、硬く勃ちあがっていた。
「お前は本当に鞭が好きなんだな」
「んんうッッ!!」
ガチガチと拘束具を鳴らして、犬塚が激しく暴れた。
───違う! 誰がこんな……!!
抗うように竜蛇を睨んでくるが、竜蛇の手の中の犬塚の雄の象徴は熱く脈打っていた。
竜蛇は唇に微笑を浮かべて、ゆっくりと手の中の犬塚をしごいた。
「ふぅうッ!」
数回上下に動かしただけで竜蛇の手はぺニスから離れた。
「ん、ん……ふ」
犬塚はほっとしたような、物足りないようなため息を漏らした。
竜蛇はまた白い引き出しから何かを手にした。
「さて、犬塚。今夜は新しいことをしようか」
震える吐息を漏らす犬塚に対して、竜蛇はまるで新しい科目を教える教師のように告げた。
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