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砂の塔

「……あ、あ……ぁう、ん……」 犬塚は瞼を閉じて、絶頂の余韻に震えた。 竜蛇の指が後孔からそっと出てゆく。それにすら犬塚は震えた。 「いい子だ。可愛かったよ。犬塚。」 竜蛇は犬塚の頬を撫で、手枷と足枷を外して犬塚を解放した。 両手両脚が自由になっても、犬塚は動かなかった。 「犬塚。今夜はこれで終わりだ。シャワーを浴びておいで」 竜蛇に促され、ゆっくりと体を起こした。まだ内腿が小刻みに震えている。 犬塚はふらつきながら、シャワールームまで壁伝いに歩いた。 この部屋では首輪しか身に付けていないので、そのままシャワールームに入った。 熱い湯を浴び、震える手で体を擦った。 犬塚のペニスは、まだ僅かに硬度を保ったままだった。 張り付いた蝋を剥がさなくてはいけない。 犬塚は唇を噛み締めて、震える手で自らの股間に触れた。 少し力を入れて、パリ……と蝋を剥がしていく。 「んっ……」 自分の手が与える感触に吐息を漏らした。 「ぅ、ふ……はぁ……あ」 犬塚の唇から、次々と甘い吐息が零れ落ちる。 自らの手で蝋を剥がす行為に感じて、硬く勃ちあがっているぺニスがビクビクと跳ねていた。 竜蛇に後ろだけでイカされて、前はまだ吐き出していない。 「……んっ」 犬塚はゆるゆると自身のペニスをしごいた。 シャワーを浴びながら、白い壁に額を擦り付けて、両手で自慰行為に耽った。 「……っ……う、はぁ……あ、あっ……」 手の動きが徐々に激しくなり、犬塚の息が荒くなる。ハッハッと短い呼吸をしながら、無我夢中で両手を動かした。 「────ッ!!……ッあ!……あ、はぁ……」 バスルームの壁に、犬塚は白い欲望を吐き出した。 「はぁ……はぁ……う、うぅ」 額を壁に擦り付けたまま、ズルズルと崩れ落ちる。 シャワーの湯が降り注ぐ下で、犬塚は小さくうずくまった。 「うっ……うっ……ぃや、だ……」 犬塚の嗚咽がシャワールームに響いた。 自分は今、何をした!? あさましい。おぞましい!! 自分の手で自分の体を抱きしめ、両腕が傷付くのもかまわずに、腕にキツく爪を立てた。 「いやだ……うっ……いや……いやだ……」 犬塚は額を床に擦り付けて泣いた。シャワーが雨のように、泣き崩れる犬塚の裸身に降り注いだ。 性玩具としての日々から解放され、築き上げてきた力とプライドが、砂で出来た塔のように儚く崩れていくようだった。 犬塚は極端に性的接触を嫌悪し、男とも女ともセックスはしてこなかった。 自慰行為ですら嫌悪して、よほどの生理的欲求が無い場合がなければ行わないでいた。 ───自分は変わった。 ブランカに「犬塚」という新しい名前を貰って、生まれ変わった。 そう思っていたのに…… 「ぁあ……や、だ……助け……ブランカ……たすけて……」 シャワーの音にかき消されそうな声で、犬塚はブランカに助けを求めた。 幼子のように頼りない声だった。 だが、今回はブランカは来ない。 今頃はヨーロッパのはずだ。 犬塚の救いを求める声は、虚しく排水溝へと流れていった。

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