28 / 151

卑猥な食事

犬塚はぐったりと弛緩した体を竜蛇に洗われた。もう抗う力もなかった。 中出しされたものを掻き出す行為で、また鳴かされたが……。 体を拭かれ、竜蛇に抱かれて部屋に戻ると、床の血痕は綺麗に清掃されていた。 シャワーを浴びる前に、竜蛇が電話で指示していたのだ。 ソファの上には、新しく竜蛇のスーツが用意されていた。 竜蛇は犬塚をベッドの上に横たえた。ベッドのシーツも新しい物に変えられていた。 良い匂いがして、サイドテーブルを見ると、食事が用意されていた。 「手当てが先だ」 竜蛇が笑って犬塚に言った。 薬箱を手にして、竜蛇がベッドに座り、犬塚の怪我の具合を確かめた。 犬塚の腕の内側に、自ら噛み切った傷があった。その血で口を汚し、舌を噛み切ったように見せていたのだ。 「犬塚。勝手に傷を作るなと言っただろう」 「……うるさい」 「……悪い子だ」 竜蛇の低い声に、犬塚の背がゾクリとした。大人しく横たわったまま、手当てを受けた。 「俺にも手当てをしてくれ」 竜蛇が犬塚を抱き起こして言った。 犬塚よりも竜蛇の方が、傷を負っているのだ。 「……」 犬塚は無言で竜蛇に噛み付いた指の手当てをはじめた。 かなり深く肉がえぐれている。消毒をして薬を塗り、包帯を巻く。 肋骨にもヒビが入っているはずだ。 犬塚はチラリと竜蛇の顔を見た。いつものように涼しげな顔をしている。 「……あんた。痛くないのか?」 「まぁ、少しはな。アバラにヒビが入ってる。やってくれたな、犬塚」 そう言う割には、嬉しそうだ。 犬塚は怪訝な眼差しで竜蛇を見た。 犬塚は気付いていないようだが、竜蛇に対する警戒心がぐっと下がっていた。 今までなら、怯えるか、嫌悪するかだった。 ましてや、あれだけ濃厚なセックスをした後に大人しく竜蛇の横に座り、手当てををするなどあり得なかった。 香澄を抱いてきた事に対して嫉妬したことも、意外だった。 他所の雌の匂いを付けて帰った竜蛇に吠えまくった犬塚に愛しさが増す。 指の手当てが終わると、竜蛇は犬塚に背を向けた。 その背の見事な入れ墨に、犬塚が息を呑む。 赤い目をした白いアルビノの蛇と、金色の目をした黒い蛇が淫らに絡み合っていた。 二匹の蛇を引き裂くように、犬塚の爪痕があった。セックスの最中に無意識に竜蛇の背に爪を立てていたのだ。 苦虫を噛み潰したような顔をして、犬塚は竜蛇の背に薬を塗った。 竜蛇は薄く微笑んだ。 今、竜蛇は犬塚に対して完全に隙を見せている。 サイドテーブルに置かれた食器は、いつものちゃちなプラスチック製ではない。 肉用のナイフは純銀製だ。充分に殺傷能力がある。 だが、犬塚はそれにも気付きもしない。 「ありがとう。犬塚」 手当てを終えた犬塚に竜蛇が礼を言う。 「……別に」 犬塚は眉を寄せて、ぶっきらぼうに答えた。 手当てを終えると、竜蛇は「腹が減ったな」と言い、料理の乗ったトレイをベッドに置いた。 トレイを真ん中にして、向き合って座る。竜蛇は裸のまま胡座になっており、犬塚は首輪だけのいつもの裸身で片膝を立てて座った。 ドームカバーを取ると、肉と付け合わせの野菜が二皿。 竜蛇がナイフとフォークで肉を切り分けた。そして、フォークに刺した肉を犬塚の口元に差し出す。 犬塚は嫌そうな顔で、少しだけ体を引いた。 「毒なんて入ってないぞ」 竜蛇はその肉をぱくりと食べて見せた。 「……自分で食べる」 「生憎だが、フォークもナイフも1セットしかない」 犬塚は眉を顰めた。白々しい。 ワザとだろう。犬塚で遊ぶためだ。 また竜蛇が切り分けた肉を犬塚の口元に差し出した。いつもの、あの笑みを浮かべながら。 「ほら。口を開けろ」 犬塚は竜蛇を睨み、フォークに刺さった肉を手で掴んで奪った。 そのまま手が脂で汚れるのも構わず、手掴みで肉を食べた。 肉を頬張りながら、ギトギトになった指を舐めた。 ここ数日、食欲が落ちてろくに食べていなかったので、ミディアムレアの肉汁が美味しく感じた。 気付かなかったが、腹が減っていたようだ。 竜蛇の視線を感じ、顔を上げる。 じっと自分を見ている竜蛇を睨んで、犬塚は皿の上の肉を手で掴んだ。 行儀が悪いとでも言いたいのだろうか。 かまうものか。どうせ、自分は育ちが悪いのだ。 犬塚は手にした肉の塊を噛みちぎって咀嚼する。 その手首を竜蛇が掴んだ。 「おい!」 竜蛇は犬塚の手から肉を食べた。 「自分で食べろ」 「俺の手から食べるのが嫌なら、お前が食べさせてくれ」 犬塚は竜蛇の言葉を無視して、手にした肉を咥えて噛みちぎった。 竜蛇を睨みながら咀嚼する。 犬塚の手首を掴んだままの竜蛇が顔を寄せて、犬塚の手から肉を食った。 「おい。俺のだ」 「堅いことを言うな。一緒に食べればいい」 そう言って、ベロリと犬塚の手を舐めた。 「……っ!」 犬塚は竜蛇の好きにされてたまるものかと、手にした肉を咥えた。 竜蛇も犬塚の持つ肉の塊に噛み付く。 まるで野生の獣が肉を奪い合うように、顔を寄せ合い、肉を食った。 犬塚は負けん気を起こしているだけなので、手掴みでひとつの肉を互いに貪る様の卑猥さに気付きもしない。 肉の脂でテラテラと光る己の唇の淫らさにも気付いていなかった。 無意識に竜蛇を煽る。 互いに貪り合い、小さくなった肉の塊を、竜蛇には渡さずに犬塚が全部頬張った。 少し得意げな顔をして、竜蛇を見る。 その顔に竜蛇は激しくそそられた。 あれだけヤッたというのに、また下肢に熱が集まる。 「んっ……!」 竜蛇は犬塚の頭の引き寄せて、口付けた。 咀嚼されて小さくなった、犬塚の口内の肉を奪った。 「……お前っ! 何を!?」 犬塚が体を引いて、慌てた声を出す。 「美味いな……」 竜蛇が脂で光る己の唇を舐めて言った。 その声に含まれる淫靡な響きに、犬塚は背をゾクゾクとさせた。 竜蛇のまだ濡れた前髪越しの熱い視線に動けなくなる。 竜蛇はトレイを脇に避け、犬塚に顔を寄せて、そのいやらしく濡れた唇をベロリと舐めた。 「あっ……」 そのまま深く口付けて、肉の味のするキスを堪能した。 「……た…つだ……」 唇を解放すると、犬塚が掠れた声で名を呼んだ。 その声に、もう竜蛇は自分を抑える事が出来なくなった。 「あぁっ……」 竜蛇は犬塚を腕に掻き抱いた。また激しく唇を貪る。 そして、再び。 犬塚を甘く鳴かせた。

ともだちにシェアしよう!