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静謐
犬塚の悲鳴と苦悶の呻き声が倉庫に響き続けていた。
「あぁあ……ぁ……ッ!」
震える犬塚の乳首には数本の針が刺さっていた。ペニスには深々とブジーが埋められている。
竿の部分にも、薄く皮を貫通するように針が数本刺さっていた。
黒い瞳から生理的な涙が溢れて、犬塚の頬を幾筋も伝う。
「……淫売の雌犬め。楽しかったか? 他の雄を咥え込むのは」
竜蛇の言葉に犬塚はゆるゆると首を振った。
「……てない……してない……あう!」
竜蛇は犬塚の喉元を掴み、泣き濡れた黒い瞳と視線を合わせた。
「……三日もなにしてやがった。あのガキを殺すか、車や金を奪って逃げるものだと思ってたが。他の男が欲しくなったのか?」
「あ……違う……ちが……」
「……てめぇは俺のモンだって、叩き込んでやんなきゃならねぇな」
竜蛇は簡易テーブルの横に立ち、何かを準備し始めた。
「……あ」
竜蛇はテーブルの上のボウルにグリセリン溶液の準備をしていた。
「中を綺麗にしないとなぁ……犬塚」
竜蛇はシリンジタイプの400mlガラス製浣腸器で、ボウルの中のグリセリン溶液を吸い上げながら冷たい声で告げた。
何をされるのかが分かり、犬塚は暴れだした。
「嫌だッ! やめてくれ、竜蛇!!」
竜蛇はちらりと犬塚を横目に見ただけで作業を続けた。
「してない! あいつとセックスなんて、してないッ! あんなこと、望んでやったことなんか、一度もない!」
ふと手を止めて、竜蛇は犬塚の前に立った。
「淫売のくせに」
「違っ……ちがう! あんなこと、おぞましいだけだ……望んだことなんかない! 好きでセックスしたことなんか一度だってない!」
犬塚は必死で言い募った。本心だった。
幼い頃から仕込まれた体は、淫らに男を受け入れる。
だが、犬塚は望んでセックスをしていたわけじゃない。あの行為には嫌悪感しか感じていなかった。
「……俺とは?」
「え……」
竜蛇が静かに聞いてきた。
犬塚は竜蛇の瞳を見た。琥珀の瞳には先程までの冷たさや怒りは見えない。先程までの激情は鳴りを潜めていた。
「俺とのセックスもそんなに嫌だったか? 感じなかったか? 一度も?」
「た、つだ……」
「本気で熱くなったことはないのか? 俺に抱かれて、嫌悪感しかなかったか?」
「……あ」
静かな水面 のような琥珀の瞳に問われて、犬塚は言葉を失う。
「望んでなんかいない。嫌悪感しかない」以前までの犬塚なら即答していた。
竜蛇に甘く囁かれ、体の奥深くに熱を感じて。竜蛇に抱かれるたびに犬塚の体はどこまでも熱くなった。
翌朝、竜蛇がスーツを着て部屋を出ていくときには、わずかに寂しさすら感じていたのだ。
竜蛇がそっと手のひらで犬塚の頬を包むように撫でた。
「……俺を欲しいとは、思わなかったか?」
「……」
この三日間、密かに犬塚は竜蛇を待ち続けていた。あんなにも逃げたいと思っていたのに。
言葉を失い、潤んだ黒い瞳を揺らす犬塚に竜蛇は微笑を浮かべた。
両手で頬を包んで、柔らかく口付けた。
「ん……」
犬塚はすぐに唇を開き竜蛇を受け入れる。自ら舌を差し出し絡めた。すぐに口付けは深くなる。
角度を変え、ねっとりと舌を絡ませあい、互いの唾液を飲み込む。竜蛇の唇が離れようとするのを、犬塚の唇が追った。
「……犬塚」
「ふ……んぅ……」
寂しかったと言わんばかりのキスに、竜蛇の胸に愛しさが込み上げてくる。
「愛しているよ。犬塚」
「た…つだ……」
唇を擦り合わせるようにして、竜蛇が甘く囁いた。
「だが、仕置きは仕置きだ」
名残惜しげに唇を離した。
「あ……」
再びテーブルの上のガラス製浣腸器を手にした。
「……ぃや……嫌だ……竜蛇!」
たっぷりとグリセリン溶液を吸い上げた浣腸器を手にした竜蛇が犬塚の背後に回った。
「嫌だ!……いやだッ!」
ガチャガチャと拘束具を鳴らして、犬塚は激しく暴れた。
「大人しくしろ。すぐに済む」
「……迎えに、来なかったくせに!」
竜蛇が意外そうに秀麗な片眉を上げた。
「三日も探しに来なかったくせに!……あんたが、あんたの方が俺に飽きたんじゃないのか!?」
「犬塚」
必死に背後の竜蛇を見る犬塚の頬にキスを落として、竜蛇は囁いた。
「お前に飽きるだって? 馬鹿な事を言うな」
「だって……なんで……」
「少しは自由をやろうと思ったんだ。お前を手放す気なんて更々無い」
「竜蛇……」
背後から犬塚に軽く口付け、改めて宣告するように告げた。
「お前は俺のものだ」
「あ……あぁ……」
その執着に眩暈がする。
竜蛇は犬塚に飽きることなどない。体だけでは満足しない。その心も支配してしまわないと満たされない。
絡みつく蛇のように、犬塚をがんじがらめにしていく竜蛇の執着心と欲望に犬塚は小さく震えた。
恐れと───歓喜から。
こんな状況なのに、嬉しいと感じてしまう。
誰からも、こんなにも求められたことなどない。
竜蛇の愛し方は酷い。残酷で犬塚を傷付ける。
それなのに……捕まって安心している自分がいる。
「……あっ!」
犬塚の後孔に浣腸器の先が触れた。つぷり、とアナルに挿入される。
「嫌だ! いやっ……お願いだ! やめてくれっ!! あんた以外とセックスなんて、してない!!」
「……ああ、可愛い。犬塚」
「やめてくれ!……あんただけ……あんただけだ……竜蛇ぁ……」
「愛しているよ。犬塚」
甘く囁いて、竜蛇はゆっくりと犬塚にグリセリン溶液を注入していった。
「ひ、いぃいい───ッ!!」
おぞましさに犬塚は悲鳴を上げて、ひきつったように仰け反った。
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