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情報屋2

   「志信さんは色男やけども、今までどの愛人も自宅に連れ帰ったことはない。それが、犬塚を連れ帰って一歩も外に出してへんのや。カタギには手ぇ出さん男やったのに、この青年くんをボコったらしいし。いよいよ本気やで、あの色男も」 馬頭はトントンと写真に写る青年を指先で叩いた。 ブランカは資料を封筒に収めて、代わりに報酬の入った封筒をテーブルに置いた。 「まいど」 「引き続き、頼む」 ブランカは立ち上がり、部屋を出ていく。その後ろ姿に、馬頭がぽそりと声をかけた。 「あんた。死相が出とるで。余計な事はせん方がええんとちゃう」 「……余計なお世話だ」 馬頭はブランカの言葉に薄く笑った。 ブランカが出ていった後も、馬頭は部屋に残っていた。この部屋でこれからもう一人の依頼人と会うのだ。 少しして、部屋のドアがノックも無く開いた。 「やぁ、久しぶりだね。馬頭」 「志信さん。お久しぶりです」 入ってきたのは竜蛇だ。 馬頭は嬉しそうに笑って、竜蛇を迎えた。 少し時間を空けているとはいえ、鉢合わせる危険もあるのに大胆な事をした。この馬頭という情報屋は腕は確かだが、変人で有名なのだ。 「相変わらずキレイな男やね。その顔見てたら涎が出そうやわ」 馬頭は舐めるように竜蛇を見ながら、口元を拭うジェスチャーをしてみせた。こういう言動が、須藤がこの情報屋を毛嫌いしている原因だった。だが、馬頭は優秀な情報屋で、金を積めばどんな情報でも手に入れることができた。 「そう。ありがとう」 竜蛇は笑って、ソファに座って長い脚を優雅に組んだ。その様子を馬頭はニヤニヤとだらしない顔で見ていた。 馬頭はゲイというんけではない。 それどころか性的不能者だった。 性的な肉体の欲求が無いかわりに、中毒者のように情報収集する性癖だった。 銀行の預金や子供時代の思い出、性的嗜好、その人間がひた隠しにしていることを暴いていく。それはたまらない快感だった。 肉体ではなく、一人の人間の情報をすべて知ることで興奮するのだ。 ある意味、馬頭は情報とセックスをする。 馬頭はトーキョーだけでなく、世界でも名の知れた情報屋でありハッカーだった。 自分の身に何かあった時の為に、裏社会の人間から政治家まで、ありとあらゆる人物や組織の情報を保険に持っていた。 だから、ただの情報屋といえど、迂闊に手の出せない男であり、ブランカも情報を得る為に馬頭の指示に従ったのだ。 蛇堂組の三代目である竜蛇志信の事も、他の組の連中から依頼され、調べつくしている。竜蛇が十代の頃からだ。 馬頭は竜蛇の事が好きなのだ。 美しい男は他にもいるが、竜蛇は極道としての生き方に美学を持っている。 中国マフィアやロシアンマフィア、雑種の移民達が混在したこの時代に、そんな極道者は化石のような存在だ。 性的嗜好もそうだ。大抵の男はセックスの最中は無防備な顔になる。 絶頂の瞬間など、間抜け顔もいいところだ。 だが、この竜蛇という男は最後まで美しかった。 過去に十代の竜蛇を徹底的に調べるよう依頼され、教師と野外セックスをしているところを隠し撮りした。 早熟でお盛んなことで、と呆れたが……馬頭はその映像に夢中になった。 こんなに美しい男がいるのだと感動した。 それからは依頼は無くとも、馬頭は個人的に竜蛇を追い続けていた。何をする訳でも無いが、竜蛇の情報を知っていたいのだ。 性的不能者である馬頭の嗜好は他人には理解されにくいが、一生誰とも交わる気はないので構わなかった。

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