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光の入る部屋1
竜蛇が馬頭と会う数日前。
あの倉庫で激しく抱かれて意識を失った犬塚が次に目覚めた時、見覚えの無い部屋のベッドの上だった。
傷の手当てはされていたが、身体中がギシギシと痛み、ろくに動けなかった。
特に背中はドクドクと熱を持ち、鈍く痛んだ。
───ここはどこだ?
真っ白なシーツのキングサイズのベッド。広い寝室のような部屋だ。
シンプルで上質な家具が置かれ、壁際の重厚な本棚には様々な蔵書が並んでいた。
あの監禁部屋と大きく異なっているのが窓だ。
本棚の対面側はベランダになっており、一面窓からブラインドカーテン越しに陽の光を感じた。
「……う」
犬塚は体の軋みに呻きながら、そろそろと体を起こした。
───チャリ……。
微かな金属音がして、シーツをめくって目を向ければ、両足首に銀色の細い足枷が付けられていた。
長さ一メートル程の細いチェーンのような鎖が両足の枷同士を繋いでいた。まるでアンクレットのようだ。
歩くのには問題無さそうだが、走ったり、脱走した時のように見張りを蹴り上げるのは不可能だ。
……首輪の次は足枷か。
もちろん、首輪も付けられたままだ。犬塚は呆れたように小さなため息をついた。
ぐるりと部屋を見回したが、竜蛇はいないようだった。
ベッドサイドのチェストに置かれた時計を見ると、丁度正午になるところだ。
コンコンと軽くノックされ、寝室の扉が開いた。
「あ。起きてる」
部屋に入ってきたのは、スラリとした中性的な女だった。
ベリーショートの赤い髪にくっきりとした二重の茶色い瞳。きりりとした顔立ちをしている。
グレーのニットに黒いパンツというシンプルな服装だったが、細身でスタイルが良いのが分かる。年齢は25前後だろう。
「犬塚さん。あたし蜂谷涼文字 っていいます。涼って呼んでください」
女はニカッと笑った。含みのないサバサバした笑い方だ。
「一応、ご飯作ったんで。持ってくるね」
一方的に喋ってさっさと部屋を出て行ってしまい、犬塚は唖然としていた。
───ここは!? 今の女は何だ!? いったい竜蛇は何を考えて……
少しして「よいしょ」と、涼が食事を乗せたトレーを持って部屋に戻ってきた。
そして、ローテーブルに二人分の食事を置いた。
ベッドの上で固まったままでいる犬塚を見て
「とりあえず、こっちに座れる? あ、もしかして動けないかな?」
少し心配そうな顔をしてベッドに近付いてきた。
「触るな! お前は何なんだ!?」
「おっと」と、涼は両手を上げて立ち止まる。
「組長から犬塚さんの飯炊き要員で呼ばれたの。あ、組長って竜蛇志信ね」
涼のおちゃらけた態度に、また犬塚は唖然としてしまう。そして混乱していた。
それを知ってか知らずか、涼は続けた。
「組長とは何でも無いですからね。あの人、ガチのゲイだし。女に興味無いし。恋人は犬塚さんだけ」
「なっ!? 恋人なんかじゃない!!」
「そう? まぁいいけど。あなたの食事を作るのがあたしの仕事ってわけ。オーケー?」
涼はハンズアップしていた両手を下ろした。
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