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光の入る部屋2
「やっぱりまだ辛そうね」
涼は犬塚の分の食事をベッドサイドテーブルの上に置いた。
「いらないなら残して。あたしはここで食べさせてもらうね。これ、鎮痛剤。少しでも食べてから飲んで」
ベッドの端に置いてあったガウンを「これ着てね」と犬塚に渡した。
そしてソファに座り、勝手に食事を始めた。
「……」
ぽんぽんとテンポ良く喋る涼についていけず、しばらく茫然としていた犬塚だったが、ガウンを羽織ってようやく口を開いた。
「……ここは何処なんだ?」
「ん? 組長の家」
「竜蛇の?」
「そう。あたしも初めて入ったの。一人暮らしのくせにめちゃくちゃ広いよ。このマンション。悪いことして稼いでるからだ」
一人暮らしと聞いて、犬塚が小さく安堵したことに涼は気付いていた。
「今までそのベッドで自分以外の誰も寝かせたことないんだって。犬塚可愛い犬塚可愛いって、耳にタコできるくらい聞かされたわ」
涼の言葉に犬塚が目尻を朱に染めた。
「あんたはいったい……」
「あたし? あたしの兄貴が蛇堂組の組員なの。兄貴はいま刑務所にいる。あたしは兄貴が出てくるまで、組長に仕事もらってるの。組長は古き良きヤクザって感じ。一度懐に入れたものは最後まで面倒みる人だよ。その家族もね」
涼はスプーンの先を犬塚に突きつけるように向けて聞いた。
「で、食べるの? 食べないの? 自分が作った料理が手付かずのまま、目の前で冷めていくのって悲しいわ」
犬塚はトレーの上を見た。まだ温かいリゾットとサラダだ。
「……」
チーズの匂いが食欲をそそった。少しの躊躇いの後、犬塚はスプーンを手にして一口食べてみた。
思ったよりも優しい味で、犬塚は無言でもう一口食べた。
犬塚が食事に口をつけたのを確認して、涼は特に何も言わず、自分も黙々と食事を続けた。
気付けば犬塚はペロリと完食していた。
「良かった。口に合ったみたいで」
笑顔の涼に対し、犬塚は気まずそうな顔をしていた。
「自分が作ったものを完食してもらうと嬉しいわ。ありがとう。はい、薬飲んで」
促されるまま、鎮痛剤を飲む。
「じゃあね。あたしは組長帰ってくるまで、家の中には居るから」
涼は空になった皿をトレーに乗せた。
「あ。家の中は好きに歩いていいって。なんか余計なもの、足に付けられてるみたいだけど。組長もたいがい変態よね」
トレーを持ち上げて、「何かあったら呼んでね」と言って、涼は部屋から出ていった。
……おかしな女だ。
終始、涼のペースだった。何故、竜蛇はあの女を寄越した? 自分を自宅に連れ帰ったのは何故だ。
いくら考えても堂々巡りだった。
そのうち薬が効いて眠くなり、そのままベッドに沈んでいった。
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