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静かな夜

犬塚は深く、深く眠っていた。 自分を包み込む心地よい温もりに、ゆっくりと意識が浮上していく。薄く瞼を上げて、数回瞬きをした。 「……!?」 誰かに背後から抱きしめられていた。ギクリと身を硬くして、背後を伺えば竜蛇だった。 犬塚を腕の中に抱いて竜蛇が眠っていた。 全く気付かないなんて……。 犬塚は舌打ちしたい気分になる。 いくら薬が効いていたとはいえ、こうして腕に抱かれていたのに気付かず眠り呆けていたなんて、殺し屋失格もいいところだ。 「起きたの? 犬塚」 目を閉じたまま竜蛇が言った。そして、ぎゅっと強く抱き締められた。 「おい」 「お前の体温は心地いいね。抱き枕としても優秀だ。犬塚」 「……馬鹿にしてるのか」 竜蛇は笑って「まさか」と言った。 「……ここ。あんたの家だって」 「ああ。このマンション自体が俺のものだ。最上階から3つ下までは、全フロア俺のだ。後はまぁ、ボディガード的な組員が住んでる」 「なんでここに?」 竜蛇は犬塚の艶やかな黒髪を撫でながら答えた。 「お前が俺のものだからだ」 「俺はものじゃない」 「そうだな。俺の愛しい可愛い雌犬だ」 犬塚はカッとして竜蛇を振り返り睨みつけた。 「貴様っ……んう!」 すぐさま口付けられ、舌を絡められた。竜蛇は甘い接吻で犬塚を黙らせる。 「……ん、ぁう」 「煽るな。今夜はしない。体を休ませろ」 口付けを解いてから、犬塚を宥めるように頬に軽くキスを落とした。 犬塚は悔しげな顔で竜蛇を見ていたが、諦めたようにため息をついて体の力を抜いた。 「あの女はいったい何なんだ?」 「涼か? 面白い女だろう」 犬塚と竜蛇は向かい合うようにして、ベッドに横になった。 「他の男にお前の世話をさせる気は無い。涼なら適任だ」 「自分の世話ぐらい自分でできる」 「まぁ、そうだろうがな……」 「……あの女を信頼しているのか?」 竜蛇は微笑を浮かべた。 「嫉妬か?」 「なっ! 違う!!」 カッとして竜蛇から離れようとする犬塚を腕の中に抱き込んで竜蛇が言った。 「嫉妬する必要はない。俺にはお前だけだ。愛してるよ。犬塚」 「離せ」 「駄目だ」 ちゅ、と竜蛇は犬塚の額にキスを落とす。 「そもそも俺は女に興味は無いしな。涼ならお前に惚れることも、お前が惚れることも無い」 「何を言って……」 犬塚は困惑した声で聞いたが、竜蛇はこれ以上話す気はないようだ。 「もう寝ろ。まだ体が辛いだろう」 そして、布越しに犬塚の背をそっと撫でた。 「背中の傷は、少し残るかもしれないな」 「……」 「俺が初めてお前に残す傷になるな」 「……たつ……んぅ」 竜蛇はおぞましい言葉を甘く囁いて、犬塚の唇にもう一度キスをした。 柔らかに犬塚の舌を吸い、ちゅっと音を立てて唇を解放した。 「おやすみ。犬塚」 「……」 竜蛇はすぐに寝息を立て始めた。犬塚はしばらく複雑な表情で竜蛇の寝顔を見ていたが、竜蛇の腕の中で竜蛇の心音を感じながら、やがて眠りに落ちていった。

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