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懐かしい記憶3

「あんた。どこまで聞いてるんだ?」 「あんたじゃない。涼」 「……」 「涼って呼ぶまで答えてあげないから」 犬塚はしぶしぶ女の名前を呼んだ。 「……涼。竜蛇から何を聞いている?」 涼は犬塚の方を見て、ニカっと笑った。 「組長からは俺の可愛い犬だって聞いてるわ。最初ほんとの犬だと思ってたの。組長だったらアフガンハウンドとか、ドーベルマン飼ってそうだなぁ、とか想像してたわ」 「な……」 犬塚の反論を封じ込めるように、涼は続けた。 「でも、意外とチワワかもって。見てみたくない? 組長が可愛いチワワ抱っこして、赤ちゃん言葉であやしてるとこ」 涼は低い声で、竜蛇の声真似をしてみせた。 「『ああ……可愛いでちゅね。愛ちてるよ……』とかね」 犬塚は呆れたような顔で涼を見た。 「ちくしょう。ウケなかったか。似てるって言われるんだけどなぁ」 ぶつぶつ言いながら、調理を再開した。 ───本当に変わった女だ……。 竜蛇にも、犬塚にも、全く物怖じしない。犬塚は涼という女に、珍しく興味を持った。 「いつから竜蛇の下に?」 「え~っとね。16の時に薬物治療の施設に放り込まれた時が初対面で、今26歳だから10年になるかな」 ……薬物治療。今の涼からは想像もつかない。 「いろいろあってね。それはまた、おいおい話すわ。あなたは?」 「何がだ?」 「あなたは、なぜ組長と?」 「……」 ───なぜ? 本当になぜなんだろう。 あの日、日本で最後の仕事だと思って竜蛇の依頼を受けに行った。 そのまま拉致され、監禁されたのだ。 ……もうずっと昔のことのようにも思えるが。 「……ま、話したくなったら話して。ねえ、そこのお皿取って」 涼に言われ、犬塚は皿を涼に渡した。 「今日はベトナム料理よ。鶏肉のフォーと生春巻き。パクチー大丈夫だった?」 「ああ」 「好きなもの、苦手なもの、教えてね。じゃなきゃ、自分の好物ばかり作るから」 思い出したように涼は犬塚を見て、イタズラっぽい目をして聞いた。 「組長の苦手なもの。知ってる?」 「なんだ?」 「ニラよ。ニラが入ってる料理が苦手なの。食わず嫌いっぽいんだけどね」 涼の言葉に犬塚が意外そうな顔をした。竜蛇の好き嫌いなど、考えたこともなかったし、妙に人間らしさを感じたからだ。 「その顔可愛い」と言って、涼は笑った。

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