59 / 151

夜のふたり1

夜遅くに竜蛇が帰ってきた時、犬塚は起きていた。 「起きていたのか。犬塚」 間接照明だけを灯して、ソファに座っていた犬塚に竜蛇は微笑を浮かべた。 眠っているだろうと思ったが、起きて自分を待っていた犬塚に心をくすぐられる。 「……」 犬塚は無言で竜蛇を見上げた。その眼差しに誘われるように、ジャケットを脱ぎながら竜蛇は犬塚の元へ歩んだ。 「昨夜の無防備な寝顔も可愛いかったが、そうして俺を待っているお前も可愛いよ」 ソファの背にジャケットをかけて、背後から犬塚の顎に指をかけて喉を反らせた。 「待っていたわけじゃ……んぅ」 犬塚の可愛い反論を遮るように、身を屈めて背後から口付ける。 「……ん……ん、ふぅ」 ちゅ、と音を立てて竜蛇の唇が離れた。 「……ただいま。犬塚」 犬塚は竜蛇を咎めるように睨んだが、その黒い瞳は潤んでいて逆効果だった。 「煽るな」 「煽ってなんかいない」 竜蛇の骨張った指が、犬塚の喉をくすぐるように軽く撫でた。 「お前は自覚無く俺を煽る。覚えておけ」 「うるさい」 「やれやれ。口が悪いね、犬塚」 竜蛇は笑って、上体を起こす。 「シャワーを浴びてくる。一緒にどうだ?」 「……もう浴びた」 「そうか」 竜蛇は「先に寝ていて構わない」と、犬塚の黒髪にキスを落としてから部屋を出て行った。 犬塚はソファの上で両膝を抱えて座り、ぼんやりと竜蛇が出て行ったドアを見つめた。

ともだちにシェアしよう!