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羞恥2
犬塚が生クリームを泡立てていると、竜蛇が帰ってきた。
「あ。お帰りなさい。早いですね」
涼の言う通り、まだ昼前だ。
「ただいま。少し時間ができてね。夕方にまた出る。今夜は遅くなりそうだから、顔を見に戻ったんだ」
竜蛇は微笑みながら犬塚の顔を見た。
「ただいま。犬塚」
「……」
だが、犬塚はどう返してよいか分からず、ふいと視線を離した。手元を見て、再び泡立て始めた。
カウンター越しに涼が犬塚を見てからかうように言った。
「犬塚さん。ツンデレね」
「うるさい」
二人のやりとりを見ながら、竜蛇は犬塚の側に歩み寄る。
「随分、涼に懐いたな」
「……」
犬塚は憮然とした顔のまま、竜蛇を見ようとしない。
「何を作っている?」
竜蛇は気にしたふうもなく、犬塚の背後に立って後ろから犬塚を包み込むようにカウンターに手を着いて耳元で囁いた。
犬塚の手がビクリと止まる。
「パンケーキよ。組長も食べる? 犬塚さん、甘いの好きなんだって」
「そう」
竜蛇が少し声を低くして囁いた。その声に犬塚の腰が僅かに震えた。
ほんの少しだが……欲望を刺激されたのだ。
この一週間。竜蛇とはセックスをしていない。犬塚は自慰行為もしていなかった。
元々、性的な事には嫌悪感を持っているのだ。
けれど、今……
背後から犬塚の手元を覗き込む竜蛇の声や体温、匂いに、犬塚は息を詰めてしまう。
この男に抱かれ、乱れた夜の事を急に思い出してしまったのだ。
───くそっ! なぜ、こんな……
「ッ!?」
竜蛇が犬塚のうなじに唇を触れさせ、柔らかくキスをした。
犬塚はビクッと体を揺らして、驚いて振り返る。
「何を……んぅ!」
今度は唇にキスをされた。一瞬、硬直した後、犬塚は竜蛇のキスから逃れようとした。
だが竜蛇は犬塚の頭を押さえ付け、より深く口付けてきた。
───何を考えてるんだ!?
すぐ側に涼もいるのだ。犬塚は混乱して、竜蛇を引き剥がそうともがくが、
───ダンッ!
「うっ!」
竜蛇はカウンターに犬塚の体を伏せに押さえ付けた。
手早くガウンの紐を解き、犬塚の腕を後ろ手に縛りあげた。
「竜蛇ッ!?」
「俺を煽るなと注意してやったのに」
「なっ……」
「悪い子だ。犬塚」
犬塚の黒髪を優しく撫でて、竜蛇は甘く囁いた。
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