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涼と香澄2
「今日の香澄の予定は?」
「一昨日から一週間、黒木様の貸切です。黒木様は昨日いらっしゃいました」
「あ~……じゃあ、休暇なんだ」
黒木は香澄の上客だ。香澄の元を訪れる日の前後を合わせて一週間、他の客を取らせないように貸し切るのだ。
黒木本人は貸し切った一週間の内、香澄に会いに来るのはたった一日だけだ。
黒木は香澄を「純粋で可哀想な子」「男娼などするべきではない存在」だと思っている。
だから、香澄とセックスをせずに話をするだけで帰っていく事が多い。
自分が香澄を貸し切っている時は、香澄に安らぎを与えたいのだと、大金を払って他の客を取らせないのだ。
哀れな香澄に尽くし、性欲を抑え、優しくする事で自己陶酔している。
そうして、家に帰ってから香澄を想って自慰をしているのだ。ある意味、特殊な性癖の持ち主だった。
「これ食べたら香澄の部屋に行ってみるね」
涼は大きく口を開けてベーグルサンドにかぶりついた。
佐和から近況報告を聞きながら昼食を済ませた涼は、香澄の自室へと向かった。
客とのプレイ用の部屋と、男娼達の住む部屋、組の者達が住む部屋はフロアごとで別れている。
涼は女だという事もあり、近くの別のマンションに住んでいた。
「香澄ー。涼だけど、開けるね」
涼は勝手知ったる様子で合鍵を使ってドアを開けてから声をかけた。
香澄は足が不自由なので玄関まで歩くのが遅い。だから、声だけかけて涼は部屋の中に入るのだ。
「涼!」
香澄はリビングのソファに座ってぼんやりしていたようだ。
「ああ、疲れた」
涼はぼやきながら、香澄の隣にボスンと座った。
「新しい仕事はどうなの?」
「地味に大変よ。今日はちょっと疲れたわ」
「お疲れさま」
香澄は涼の赤毛を優しく撫でた。涼は香澄がこの娼館に来た時から、香澄の面倒を見ている。
香澄が一番気を許している相手だと言えるだろう。
「香澄に癒されに来ちゃった」
その言葉に香澄がふんわりと微笑んだ。
───あ。佐和さんの言う通り。ちょっと不安定だわ。
「香澄は? あたしがいなくて寂しいんじゃないの?」
「……そうだね。でも、佐和さんも良い人だし、親切にしてくれてるよ」
「こら」
涼は香澄の頬を柔らかくつねって離した。
「そう聞かれたら『涼がいなくて寂しい』って答えるのよ」
「……うん。涼がいなくて寂しいよ」
「よろしい」
香澄が「仕方ないなぁ」という風に苦笑したのを見て、涼はニカッと笑った。
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