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涼と香澄4

もがく香澄を押さえたので、びしょ濡れになった涼も下着を脱いで軽くシャワーを浴びた。 風呂を出て香澄にガウンを着せて、自分は買い出しの時に家に寄って持ってきたスウェットの部屋着を着た。 まだ少しぼんやりしている香澄文字(ルビ)を洗面所の鏡の前の椅子に座らせて涼は背後に立ち、ドライヤーで香澄の黒髪を乾かした。 「ほい。終わり」 「涼も乾かしてあげる」 「いいよ。ほっといても乾くし」 「風邪ひいちゃうから」 香澄は少し椅子を引いて、涼は香澄の足の間の床に胡座を崩して座った。 ドライヤーの温風をあてながら、香澄が華奢な指で涼の短い髪を優しく梳いた。 「柔らかい髪。伸ばせばいいのに」 「楽なのよ。短いの」 ベリーショートの赤毛はすぐに乾いた。 「ありがと。香澄」 「うん」 涼は眠る前に、少しだけブランデーを入れたホットミルクを作った。眠りが深くなる。 香澄は寝室でベッドヘッドにもたれて座り、涼に渡されたホットミルクを啜った。温かいミルクにホッとする。 涼はベッドに上がり、香澄の隣に脚を伸ばして座った。 「……竜蛇さんは、どうしてるの?」 香澄が一番聞きたかった事だろう。 「相変わらず悪い仕事してるみたいよ」 「元気?」 「元気そうよ」 「最近、全然来てくれなくて……」 香澄は切なげに俯いた。 「あんなののどこがいいの? そりゃ美形だけど、ヤクザでサドだよ」 「……特別なんだ」 竜蛇に責められ、抱かれた後は夢を見ない。深く泥のように眠れる。 「……組長は香澄には合わないよ。とゆうか、ヤクザはやめときなって」 「……」 「せめて佐和さんとか。優しいよ、あの人。ヤクザのくせにフランダースの犬のアニメで泣くし」 「……」 「かわいそ。佐和さん、フラれちゃった」 おちゃらけて言う涼に香澄は眉を顰めた。 「涼……」 「ごめん」 涼は香澄の手から空になったカップを受け取り、サイドチェストの上に置いた。 「寝よっか」 涼は部屋の灯りを穏やかな間接照明に変えた。ふたりはベッドに入り、向き合うようにして横になった。 「竜蛇さんに会いたい」 「うん」 「あの人が好きなんだ」 「うん」 「あの人だけが特別なんだ。他の男達とは違う」 「そうね」 涼は(せき)を切ったように溢れる香澄の言葉を聞き続けた。 「組長も仕事が落ち着いたら来るでしょ。それまでバカな真似はしないのよ」 「……うん」 香澄は儚げに微笑んだ。 「僕はここから出られない。待つしかできないもの」 涼の胸が罪悪感で僅かに痛む。 竜蛇はあれで情が深い。怖い男だが、一度懐に入れた人間は最後まで見る。涼と兄の事もそうだ。 だが、香澄は違う。香澄の事は商品としてしか見ていない。 ───香澄は幻想の恋に生きている。 香澄は今まで男達の欲望に喰われ、その男達の人生を破滅へ導いてきた。 肉欲にまみれた人生だ。 竜蛇の冷たい琥珀の瞳は、香澄に対して一線を引いている。だからこそ、余計に香澄は竜蛇に惹かれるのだ。 「あんたには悪女だとか、毒婦だとかは似合わないんだから。いい子にしてなよ」 涼は香澄の黒髪を撫でて、クセのない髪を指先絡めた。さらさらと黒髪が指から滑り落ちる。 「なにそれ」 香澄は少し笑って、静かに目を閉じた。 「……おやすみ」 「おやすみ。香澄」 「ありがとう。涼」 「うん」 穏やかな涼の呼吸と体温を感じながら、香澄は眠りについた。 久しぶりに悪夢を見ないですんだ。

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