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志信3
「ぐぅ……は……ッ!」
「……可愛いよ。犬塚、愛しているよ」
竜蛇が犬塚の唇をベロりと舐めると、犬塚は竜蛇の舌を追うように、大きく口を開けて舌を伸ばした。竜蛇は微笑んで、犬塚の舌を食んだ。
ねっとりと舌を絡めて、互いに深く貪り合う。竜蛇が離れようとするのを許さず、竜蛇の唇を甘噛みしては引き止めた。 犬塚が夢中で竜蛇の唇を求めるので、口付けは長く深いものになる。
「は……はっ……あぁ」
長い口付けは竜蛇の方から解いた。犬塚は物足りないとでも言うような目で、竜蛇の濡れた唇を見ている。
「もっと責めて欲しいだろう。お前の体は貪欲で淫売だ」
「うるさい……ちがう……俺は……」
「尻の孔を犯されるのが好きな淫乱だ。女のアソコのように扱われるのが好きだろう」
「やめろッ」
「痛いのも好きだったな。殺し屋としての仕事で、わざと傷を負っていただろう。分かっているぞ」
「……ッ!」
傷を負っていたのは無意識だった。だが確かに犬塚は傷の痛みに甘美な快楽を味わっていたのは事実だ。自分の後ろ暗い欲望を指摘されて、犬塚は羞恥にきつく目を閉じた。
「恥ずかしがることはない。そんなお前も可愛いよ。犬塚……どんなお前でも愛しい」
「竜蛇……」
「お前のすべてが欲しい」
竜蛇は琥珀の瞳で犬塚を貫くように見つめている。情熱と欲望が宿っているが、その奥は深く穏やかな光を湛えていた。
「どんなお前でも愛しているよ。俺のすべてをお前に捧げる」
「……っ」
犬塚は息を呑んで竜蛇の顔を見た。
いつもの睦言とは違っていた。まるで竜蛇の方が忠実な犬であるかのような声と言葉に、犬塚は戸惑ったのだ。
「……ゆきと」
竜蛇が口にした名前に犬塚は大きく目を見開いた。
「愛しているよ。幸人」
竜蛇は犬塚の揺れる犬塚の瞳をまっすぐに見つめて、もう一度、その名を呼んだ。
『……と……ほら、おいで……ゆきとの好きなジュースだよ……』
記憶の奥に存在するぼやけた顔の母親が、自分の事を『ゆきと』と呼んでいた。
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