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破滅2
竜蛇はベランダに出て犬塚の腰を抱き寄せた。
「竜……んぅ」
そして犬塚に口付ける。いつもの甘い接吻だ。唇を合わせて、冬の風で冷えた犬塚の肌を撫でた。
「風邪をひいてしまうよ」
「もう少し……このまま」
犬塚は竜蛇のくすんだ金茶の髪を、両手で乱すようにして引き寄せた。
キスを求められれば竜蛇は応える。
全てを与えるように唇を深く合わせて、吐息を分け合うような口付けを長く続けた。
犬塚が小さく震えたので、竜蛇は犬塚の体を引き寄せて室内へと戻った。
そっとベッドに犬塚を押し倒してキスを続けた。先程の犬塚の視線に竜蛇の胸に火が灯ったのだ。
まるで何かに目覚めてしまったかのような、妖艶で危険を孕んだ眼差しだった。
「ん、たつ……ふぅ、うん……」
「ああ……幸人……愛しているよ」
そして再び、竜蛇は犬塚を抱いた。
犬塚の体内に蛇のように侵入し、その締め付けに酔い痴れた。犬塚の何かが変わった。それが何かまでは竜蛇には分からない。だが今まで以上に犬塚に惹かれていた。
「ああ、志信……志信……っ」
ゆるやかなセックスの律動に犬塚はうっとりとして竜蛇の名を呼んだ。
すらりとした脚を竜蛇の腰に絡めて、淫らに腰を揺らめかす。
まるで竜蛇の方が抱かれているようだ。
そう思って竜蛇は苦笑し、犬塚に覆いかぶさって、しなやかな裸体に溺れていった。
その頃、涼は早朝に竜蛇から「今日は来なくていい」とメールを貰っていたので、家でだらだらと過ごしていた。
本当は娼館に顔をだそうかと思っていたのだが……届いていたハガキを見て何もしたくなくなってしまった。
───刑務所にいる兄からだった。
「元気か? 仕事の事は須藤さんに聞いている。須藤さんや組長に迷惑はかけないように」と、無骨な字で淡々と書かれていた。
「……はぁ」
涼はため息をついてベッドにごろりと寝ころんだ。ハガキを眺めながら、その無骨な字を指でそっとなぞる。
兄は未だに罪悪感を持っている。自分のせいで涼が道を踏み外したと思っているのだ。
……踏み外した。
涼はそうは思わない。なるべくしてなったのだ。
人生は選択の連続だ。涼は自分で選んだ。それが破滅に近い選択だろうと後悔は無い。
心を締め付けるような苦痛はあっても、後悔だけはしていない。自分の心に嘘は無い。たとえそれがどんなに歪んだ感情であろうとも。
選んだことに対して後悔をするのは弱さの表れだ。涼の芯の部分は強い。
どこまで堕ちようとも折れる事はない。
涼の本質を知っている竜蛇は、だからこそ犬塚の世話係に涼を選んだのだ。
涼は兄からのハガキを胸に抱いて瞳を閉じた。
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