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休日1
情事が終わると、竜蛇は犬塚を抱きあげてバスルームまで運んだ。
昼間からセックスをした気怠い体を互いの手で洗いあう。竜蛇は何度も軽いキスを犬塚にして、犬塚は黙ってそれを受け入れた。
シャワールームを出た犬塚はいつものように竜蛇の部屋着を着た。足枷は外されたままだ。
「いいのか?」
「ああ。もう必要ない」
竜蛇の服は犬塚には少し大きい。犬塚はスウェットの裾を少し折った。
「可愛いよ。犬塚」
その姿を見て、竜蛇は犬塚の頬にキスをした。
竜蛇が何か作るというので、犬塚は一緒にキッチンへ行った。
「何かリクエストはあるか?」
「……トルティージャ」
「スペインオムレツだな」
昔、ブランカが作ってくれた料理だ。
「妬けるな……。昔の男を思い出すような顔をするな」
竜蛇が犬塚の腰を抱き寄せて、咎めるように言う。
「そんなんじゃない」
「まぁいいさ。それ風なものでいいか?涼ほど料理は得意じゃない」
「ああ」
竜蛇はちゅっと音を立てて犬塚の唇にキスをして、唇を触れ合わせたまま「卵を溶いてくれ」と囁いた。
竜蛇はジャガイモとチーズでスペイン風オムレツを作った。それと簡単なサラダとスープ。バゲットをトーストして、コーヒーを淹れた。
寝室に戻り、料理を乗せたトレイをベッドに置いた。枕やクッションを重ねて置いて、ベッドヘッドにもたれるようにして脚を伸ばしてだらしなく座った。
壁に設置してあるテレビのスイッチを入れて「涼とはよく映画を見ているんだろう。何を見るんだ?」と竜蛇が聞いた。
「涼が持ってくる映画を適当に見てる。涼はホラーやアクションが好きみたいだ」
「そうか。お前は?」
「何がだ?」
「お前の好きな映画は?」
「特に何も……でも」
「なんだ?」
「あの映画は面白かった。何度も過去に戻って戦いのスキルアップをして侵略してきたエイリアンと戦うやつ。ヘタレの少佐が強くなっていくんだ。確か日本の小説が原作だった」
「ああ。それなら俺も見たことがある」
竜蛇と話しながら犬塚はまた奇妙な気持ちになった。よく考えればこんな会話は初めてだ。
二人はセックスばかりしてきた。好きな食べ物や映画の話。そんな普通の恋人同士のような会話などしたことはなかった。
恋人同士。
そんな事を考えてしまい、犬塚は気まずくなってぷいと竜蛇から視線を外した。竜蛇は笑みを浮かべて呟いた。
「……お前は本当に可愛い男だよ。犬塚」
「うるさい」
犬塚はごまかすようにコーヒーを啜った。
「これでも見るか」
竜蛇はリモコンをいじっていたが、ちょうどケーブルで映画が始まるところだったので、そう言ってリモコンをベッドの上に放った。
古い映画で、両手がハサミの人造人間のファンタジー映画だ。
犬塚は竜蛇の作ったトルティージャを食べた。ブランカが作ったのとは味が違う。でも美味かった。
何も言わず、もくもくと食べる犬塚を竜蛇は苦笑して見つめた。
「何だ?」
「いや。美味いか?」
「ああ」
「そうか。良かった」
竜蛇も食べながら、画面に視線を向けた。
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