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休日2

  食事を終えると、空になった食器をトレイに乗せて床に置いた。 二人はベッドにだらしなく座ったまま、何をするでもなく映画を見ながら時折話をした。 最初の映画が終わって、今度はSFアクション映画が始まった。 「この男にこんな動きはできない」 「まぁ、半分CGだからね」 「こんな体でこんな技はかけれない。もっと脂肪を落とすべきだ」 「手厳しいね。犬塚」 主役の俳優にダメ出しをする犬塚に竜蛇は苦笑していた。 犬塚の肉体は無駄が無い。野生の獣のようにしなやかで美しい筋肉の持ち主だ。 それに長年、殺し屋として生きてきた。娯楽の少ない生活しかしてきていないので、映画を単純に楽しむという感覚が薄いのかもしれない。 犬塚はアクションには厳しいようだと、竜蛇は声に出さずに思った。 結局、一日中ダラダラと過ごした。 こんな風に穏やかに、無駄に過ごすことなど犬塚は知らなかった。それが意外と心地いいことも。 映画を観終わった後、二人はベッドに向き合うように寝転がった。 「あんたはどうして変態プレイが好きなんだ?」 「変態……まぁ、そうだが。何故と言われてもな……。気付いたらこうだった。支配することも、苛めて泣かせるのも好きだ。お前の泣き顔にゾクゾクするんだよ」 「黙れ」 「お前が聞いたくせに」 「……今までにも、誰かを……こんな風に……」 そこまで聞いて、犬塚は口ごもる。 竜蛇の過去の相手のことなど知りたくはないと思ったのだ。 「組がらみで監禁した事ならある。だがプライベートで可愛い男を監禁したのはお前が初めてだよ。あの監禁部屋。居心地よかっただろう。かなり金をかけて改装したからな」 「あんた……馬鹿だろう」 「ああ。お前にイカれているからね」 竜蛇は微笑んで、犬塚の頬を柔らかく撫でた。 「誰かを愛しいと思うのに理由は無いんだよ。俺は悪党だ。一般的に悪党が誰かを愛するなどおかしいと言う者もいるが、善人でも悪人でも心は自由だ。自分自身でもコントロールができない事もある。恋情とは憎しみよりもコントロールできない感情だ」 「……」 犬塚は黙って竜蛇の声を聞いていた。 「憎しみは単純だ。理由がある。個人相手にだったり、社会に対してだったり。自分自身に不利益な出来事や感情を与える存在を憎むんだ。だが愛情は無条件だ。説明するのが難しい感情だよ。愛と独占欲は違うと言う者もいるし、愛しているから独占したいと言う者もいる。複雑な感情だ」 「あんたは俺をどうしたいんだ?」 「そうだな……」 犬塚は黒曜石のように黒く美しい瞳で竜蛇を見ていた。 「実はよく分からない」 「あんた……」 竜蛇の言葉に犬塚は呆れたようにため息をついた。 「最初はね。監禁してセックス調教をしてやろうと思った。だがお前の傷を知って、その傷痕を上書きして支配したいと思った。前までのお前も好きだが、今のお前も好きだ」 「今の?」 「俺を支配しているお前だ」 「あんたを支配している実感は無い」 犬塚は困惑する。自分自身の変化に気付いていないのだ。 「構わないよ。俺には実感がある」 竜蛇の話は難解だ。 犬塚には理解しきれない。 だが竜蛇は何もかもを理解しているかのような瞳で犬塚を見つめる。犬塚はあれこれ考える事を放棄した。 「勝手に言ってろ。俺には分からない」 「拗ねるな」 「うるさい」 竜蛇はまるで子供をあやすように犬塚の頭をくしゃりと撫でた。

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