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ギデオン2
「ブランカは君くらいの歳の時に大事な人を失っているんだ。彼の心には穴が空いたままだ。彼はとんだ欠落人間になってしまった」
犬塚は顔を上げてギデオンを見た。
「君が彼の穴を埋める存在になったらなぁ、なんて僕は思うよ」
ギデオンは優しい瞳をしていた。犬塚にはその言葉の意味がよく分からなかった。
「ほら。冷めてしまうよ」
「……」
黙ったまま犬塚は炒飯を食べた。他にも買ってきたデリを勧められて、オレンジフレーバーチキンを食べた。
「ねぇ、ブランカは君に名前を付けてくれたかい? 名無し君じゃ不便だろ」
ブランカは犬塚を「おい」とか「お前」だとか「日本人」と呼ぶ。でも一緒に買い出しに出かけた時……
「アキラ」
犬塚の事をそう呼んだ。
「アキラか。日本の有名な映画監督の名前だね。クラシック・アニメのタイトルだ。いいじゃないか」
ギデオンは微笑んで犬塚をアキラと呼んだ。
「お茶のおかわりは? アキラ」
「ください」
ギデオンは中国茶を犬塚のカップに注いだ。
昔の事を思い出していると、玄関の開く音がした。涼が来たのだ。
犬塚はむくりと起き上がって、寝室を出て玄関まで歩いた。
「あ、犬塚さん。こんにちは……っと。あらら」
「何だ?」
涼は犬塚の顔を見て、ニヤッと笑った。
「別に~。後で聞くわ。これキッチンに運んで」
涼はニヤニヤと笑いながら、買ってきた食材を犬塚に渡した。
涼は勘が鋭い。犬塚の変化を一目で見抜いたのだ。犬塚自身にもよく分からないのに何故、涼や竜蛇には分かると言うのか。
犬塚は少しムッとして荷物を受け取り、涼に背を向けた。
「拗ねないでよ。ツンデレは健在ね」
「うるさい」
二人は軽口を叩き合いながらキッチンに入っていった。
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