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炎1

  涼は食材を冷蔵庫に収めながら犬塚に聞いた。 「で?」 「なんだ?」 「何があったの? それ組長の服でしょ。それに顔つきが変わってるわよ。がらりとね」 犬塚は複雑な表情で涼に聞き返した。 「どう変わった?」 「犬塚さん。無自覚ね」 涼は冷蔵庫のドアをバタンと締めて笑った。犬塚は少しイラついて、再び聞いた。 「だから、何が違うんだ?」 「そうね……」 涼はシンクにもたれるようにして、じっと犬塚の顔を見た。 「怯えが消えた感じ」 「は?」 犬塚は顔を顰めた。怯えだと? 誰に怯えていたと言うのか。 「ああ、勘違いしないでね。犬塚さんが組長やあたしを怖がってたって意味じゃないのよ。なんていうかな……本当の自分を見て見ぬふりしてきたのをやめたのかなぁって感じ。組長の重たい重たい愛情から逃げることもね」 「本当の……」 「ねぇ、犬塚さん。あなたは難しい男よ。厄介だわ。歪んでるし」 涼の言い様に犬塚はムッとした。 「あたしが言いたいのは、組長くらいの相手じゃないと犬塚さんは満たされないってことよ。あの人もたいがいだからね」 「どうゆう意味だ」 「……あなたはね。傷を抱えてる。けれど可哀想だとか、優しくされるとかじゃ、あなたは救われないのよ。世間一般的な優しい、真っ当な愛情じゃ満足できないんだわ」 「……」 涼はふっと笑ってみせた。どこか自虐的な笑みで、いつもの涼らしくなかった。 犬塚が戸惑っていると、 「ごめんね。半分は自分に向けた言葉だわ」 涼はダイニングの椅子に座り、犬塚にも座るように促した。 「前に言ったでしょ。おいおい話すねって。あたしばっかり犬塚さんを分析してるみたいだから、あたしの話もしなきゃフェアじゃないよね」 犬塚は涼の向かいの椅子に座った。

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