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名前1
その日の夜。ブランカは馬頭から連絡を貰い、指定された部屋に来ていた。
「おまたせ」
少し遅れて馬頭が入って来た。
「ブランカさん。ご飯ちゃんと食べてる? 顔色悪いで」
「……それで?」
「相変わらず愛想ないなあ」
馬頭は苦笑いで持ってきた資料を渡した。
「志信さんの同級生に前園志狼ゆうんがおるんやけども。毎月、志信さんと前園はお気に入りのバーで飲むんや」
ブランカはA4の封筒から出した資料にざっと目を通す。馬頭の言うバーの見取り図や従業員の情報だ。
「その時は志信さんは護衛を付けず、前園と個室でふたりきりになる。前園はいっつも遅刻してくるんや。だいたい20~30分くらいな」
馬頭は「こんな美形を待たせるなんて、ムカつく男やで」とぼやいた。
ブランカは前園志狼の写真と資料を見て、昔の「仕事」の事を思い出した。竜蛇志信が調べているのは、この男の父親の事だ。ブランカが殺した。
「五日後や。志信さんが前園と会うのは」
ブランカは顔を上げて馬頭を見た。
「ここのバーは高級志向や。警備も万全。政治家やらも来るから、プライベートをがっちり守る為やね。でも、あんたやったら潜りこめるんちゃう? 志信さんと接触するならこの日や。邪魔が入らんのは、余裕をもって15分位って見とき」
ブランカは資料を封筒に納めて、馬頭に報酬の入った封筒を渡した。
「まいど」
立ち上がったブランカに馬頭が言った。
「でも、いらんことせんと日本出てった方がいいんとちゃう? 志信さんと幸人くん。なんやラブラブみたいよ。妬けるわぁ」
「幸人?」
「犬塚の本当の名前。槇村幸人くんいうんやて」
「……」
ブランカは無言で部屋を出て行った。
「……けどまぁ。あんたが志信さんを殺すいうんなら、その瞬間は録画しとかなあかんな。永久保存やで」
馬頭はぽつりと呟いて、淫靡な笑みを浮かべた。
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