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外の世界2
竜蛇が唇を開いて犬塚の舌を招き入れた。舌を絡めて唇を密着させる。
「……ん……ふ」
ちゃぷり、と湯が揺れる音が響く。いつしか犬塚は竜蛇とのキスに夢中になって、濡れた金茶の髪を乱すように指を差し入れて引き寄せた。
竜蛇の手が犬塚の背骨のラインをなぞる。
「・・・はっ・・あ。」
「ベッドへ行こう。ここでは動きにくい」
竜蛇が甘い声で犬塚を誘う。犬塚はほんの少し悔し気な顔をしたが、無言で立ち上がりバスタブから出た。
犬塚が濡れた裸体をタオルで拭いていると濡れたままの竜蛇が背後から抱きしめてきた。
「邪魔だ。また濡れる」
犬塚の不機嫌な声に竜蛇が笑った。だが腕を離さず、犬塚の耳にキスをして囁いた。
「見てみろ」
「は?」
竜蛇は鏡を見るように言って、犬塚の首筋に羽毛のようなキスを幾つも落とす。
「まるで対になっているようだ」
「なんの話だ」
犬塚は訝しげに鏡を見た。
「俺達はあつらえたようにしっくりくる」
「……」
金と黒。琥珀と黒曜石。フリーの殺し屋と蛇堂組の組長。混血と純潔。サディストとマゾヒスト。
両極のようでいて隣に立つのがしっくりくる。竜蛇は自分達は『合う』のだと言う。
「それに、キスをするのにもちょうどいいだろう?」
竜蛇の方が頭半分ほど背が高い。竜蛇は耳からこめかみ、頬に口付けた。
そして犬塚の顎に指をかけ、再び唇にも接吻をした。
ひとしきり犬塚の唇を味わった後、体を拭いてガウンを着た。
今夜の竜蛇は穏やかな空気を纏っている。
アブノーマルなプレイはしないのだろう。そんな事を考えながら、犬塚もガウンを羽織った。
寝室に入ってすぐに竜蛇がキスをしてきた。性急ではなく、じっくりしたキスだ。
そんな竜蛇の余裕のある態度が癪にさわる。犬塚は竜蛇のガウンの襟元を掴み、ベッドに押し倒した。
「どうした? 激しいな、幸人」
「あんたは今夜は大人しいな」
犬塚は竜蛇のガウンの腰紐を解いた。竜蛇は面白そうに笑みを浮かべ、犬塚の好きにさせた。
その笑みに益々イラついた犬塚は腰紐で竜蛇の両手首を縛り、ベッドヘッドに結んで頭上に固定した。
「今夜はお前が女王様か」
「うるさい」
「これはこれで興奮するな」
竜蛇のペニスは完全に勃起していた。
「……あんた、マゾっ気もあるのか?」
「SとMは表裏一体だからな。精神的には俺はマゾだ。お前に支配されているしね」
犬塚は眉根を寄せて竜蛇を見下ろす。
犬塚に竜蛇を支配している実感は無い。
それを確かめてやろうと、ふいにそう思った。
「……」
だが少し困った。この男を鞭打ちたいとも、抱きたいとも思わない。竜蛇を縛ったのはいいが、先へ進もうにも迷っていた。
「尻を向けろ」
そんな犬塚を見て、竜蛇が言った。
「は?」
「お前は女のように濡れないだろう。舐めて濡らしてやるから、淫売らしく俺の顔を跨げ」
「……なっ!?」
その屈辱的な言葉にカッとなった犬塚は竜蛇の頬を張った。パンッという乾いた音が響く。
「……これだからお前は可愛いんだ」
「黙れ!」
犬塚は苛立ち、黙らせようと竜蛇の喉元を押さえつける。だが、竜蛇の笑みはより深くなった。
「俺の言葉にいちいち反応するから可愛いと言ったんだ。初心な小娘みたいだぞ。平然とした顔で俺の顔を跨いでみろ。舐めろ、とお前が命令すればいい」
初心な小娘と言われて、犬塚の眦をつり上げた。だが竜蛇の言葉に反応するから、この男を楽しませてしまうのだ。
このまま何もせずに眠るという選択肢は犬塚にも竜蛇にも無い。
犬塚の体の奥にも情欲の火が灯っている。
この男とは何度もセックスをしている。今更だ。
犬塚は感情を消したような顔でガウンを脱いで、無言のまま体制を変えて竜蛇の顔を跨いだ。
「もっと尻を落とせ」
「うるさい。あんたは黙って奉仕してろ」
犬塚の言葉に竜蛇が低く笑った。
不機嫌そうな声音とは裏腹に、犬塚は素直に腰を落としてきたので、竜蛇は舌を伸ばして犬塚のアナルを舐めた。
「……っ」
犬塚の腰がピクリと揺れた。淫らな唾液の音を立てて、竜蛇の舌が犬塚の後孔を雌犬の孔に変えていく。
犬塚は顔を下げてグロテスクに勃起した竜蛇のペニスに舌を這わせた。竜蛇が心地良さげな息を吐いて、それが犬塚のアナルにかかり犬塚を小さく震えさせた。69の体制で互いに奉仕しあう。
「……ん、ん……」
竜蛇の男根を咥えて、スライドさせてフェラチオする。このまま先にイカせてやろうかとも思ったが、舐められ解けてきた後ろに竜蛇のペニスが欲しかった。
犬塚は密かに驚愕していた。
男とのセックスなど嫌悪していたのに……。
自ら男のペニスを頬張り、アナルに欲しいと思うようになるなど……これまでの犬塚からは考えられない事だ。
竜蛇に初めて犯された時の事を思い出す。
絶望と恐怖と嫌悪。それなのに肉体は歓喜して竜蛇の雄を締め付けていた。
今は絶望も恐怖も嫌悪も無い。
一方的に犯されているのでもない。
竜蛇に抱かれ、責め苛まれて、犬塚の肉体も精神も淫らに燃え上がる。
セックスの後に「愛している」と囁く竜蛇の声に満足してしまう自分がいる。
けれど、自分が竜蛇を愛しているかどうかは分からない。
分かるのは、この男を失う事を恐れている自分がいる事だった。
「……幸人。お前の雌犬の孔が俺を欲しがって、だらしなく口を開いているぞ」
「……っ……うるさい!」
竜蛇の言うように犬塚のアナルはヒクヒクと淫らな収縮を繰り返している。
「びしょ濡れで可愛いよ」
「黙れッ!」
竜蛇は笑って犬塚の尻にキスをして、尻の肉を甘噛みした。
「……降参だ。お前の中に挿れたい。お前は最高だ。このいやらしい雌犬の孔で俺を喰ってくれ」
「……は、あぅ……あ……あ」
竜蛇に甘い声でねだられ、賛辞され、尻肉を舐め回されて犬塚の腰が淫らにくねった。アナルは苦しい程に疼いている。
「お願いだ。幸人……ここに挿れさせてくれ。お前のナカは熱くて、淫らで気持ちがいい。ここに挿れたい……挿れたい……頼む、幸人」
「あ、あ……志信……ああッ!!」
志信と呼ばれて興奮した竜蛇が犬塚の尻肉をキツく噛んだ。
その甘美な痛みに犬塚の裸身がビクッと跳ねて、腰が砕けたように竜蛇の裸体の上にぐったりと伏した。
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