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外の世界4

翌朝、竜蛇は朝食も食べずに朝早くに出て行った。 犬塚は竜蛇を見送るために気怠い体を起こした。竜蛇はいつものように犬塚にキスをしてから玄関を出た。 閉じられた扉をぼんやりと眺めながら、犬塚は昨夜の事を思い出していた。 セックスが終わった後、ベッドに横たわり、たわいのない話をしていた。 『俺があんたを支配していると言うなら、この首輪を外せと言えば外すのか?』 『……まだ駄目だ』 その言葉に犬塚は訝しげに竜蛇を見た。竜蛇は相変わらず微笑を浮かべて犬塚を見ている。 『お前はまだ迷子になる子犬だ。その首輪は必要だ』 『……』 『怒るな。だが、それ以外は自由にしていい』 馬鹿にされているように感じた犬塚が拗ねたような顔をしたので、宥めるように竜蛇が柔らかなキスをしてきた。 結局、そのまま眠ってしまったが…… ─────自由。竜蛇はそう言った。 この部屋にはカメラも監視人もいない。犬塚はほんの悪戯心から玄関のドアを開けてみた。 しばらく廊下を眺めていたが、何も起こらない。 犬塚は竜蛇の革靴を履いて玄関を出た。廊下を歩いてエレベーターへ向かう。竜蛇の部屋のフロアやトレーニングルームはキーが無いとエレベーターは止まらないと聞いた。 では、一階に下りるのはどうだろうか? 犬塚はエレベーターに乗って一階のボタンを押してみた。 同じ頃、ブランカの泊まっているホテルの部屋に電話がかかってきた。 このホテルに泊まっている事を誰も知らないはずだが。 『ブランカさん。まいど』 「なんの用だ?」 電話の相手は馬頭だった。 この情報屋にはブランカの行動も全て筒抜けのようだった。それを知らせる為にわざとホテルの部屋にかけてきたのだろう。 『面白い事になってるで。あんたの犬、蛇の巣から抜け出したわ』 犬、とは犬塚の事だ。 『犬攫いが付けた首輪があるから向こうも気付いとるやろうけど、もしかしたらワンちゃん保護できるかもよ?』 「……」 そう簡単に竜蛇が犬塚を逃がすとは思えない。首輪の事もある。わざと犬塚を泳がせているのだろうか。 『おたくのスマホにワンちゃんの現在地送っとくで。あんたの好きにしたらええわ。ほんならね』 それだけ言って馬頭は通話を切った。 すぐにブランカのスマホが鳴る。 送られてきたのは竜蛇のマンション周辺の地図だ。この辺りは蛇堂組の所有する物件や竜蛇がオーナーの店も多い。 竜蛇のマンションには護衛の組員も住んでいるのだ。まさに蛇の巣だ。 そのリスクを承知で馬頭は情報を伝えたのだろう。あの変人は面白がっているのだ。 ブランカの泊まっているホテルは竜蛇に気取られない程度の距離だが、竜蛇のマンションに比較的近い場所だ。 馬頭から二通目のメールだ。竜蛇は蛇堂組の表の会社にいる事、そして犬塚の移動範囲の詳細だ。リアルタイムで送るつもりらしい。 「……」 ブランカはじっとスマホの画面を見つめた。添付された画像は、遠くて画質は悪いが犬塚の写真だった。

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