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人並み1
マンションの前に涼が腕を組んで立っていた。
「涼」
「最悪」
涼はジロッと犬塚を見て呟いた。
「ほら、寒いでしょ。戻るわよ」
くるりと踵を返してエントランスへ向かう涼の後を慌てて追った。涼の言葉に犬塚は少し戸惑っていた。
勝手に出て行った事を怒っているのか?
だが閉じ込められている訳じゃないし、犬塚の自由だと竜蛇は言った。
それに涼がそんなことで怒るとも思えない。
エレベーターに乗った涼はカードキーをかざした。
「もう。犬塚さん。これが無いと部屋に戻れないのよ」
「あ」
「この寒い中、外で待ってたんだから」
「……すまない」
犬塚はバツが悪そうに謝った。
よく考えたらそうだった。外には出られても、カードキーを持っていない犬塚は部屋に戻れないのだ。
「それにその格好。最悪だわ」
「は?」
「組長のスウェットに組長の革靴。寒いのに上着も無し。サイズも合ってない。ひどい格好。不審者すぎるわ」
涼は犬塚の頭のてっぺんから爪先まで呆れ顔で見た。
犬塚は少しムッとして、これしか着る物が無いのだと反論しようとしたらエレベーターが止まった。
「とりあえず朝食よ」
涼はさっさとエレベーターを降りていってしまった。
犬塚は開きかけた口を閉じて、仕方なしに涼の後ろをついて歩いた。
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