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人並み2

  朝食を食べ終えた犬塚は、いつものように洗い物を手伝っていた。 洗い終えると「犬塚さん、こっち来て」と、涼に呼ばれた。 涼は竜蛇のクローゼットルームに勝手知ったる様子で入ったので、犬塚は少し困惑したように涼を見た。 「組長から電話があったのよ。犬塚さんが朝の散歩に出かけたって」 首輪のおかげで犬塚の行動は把握されている。今朝、犬塚がマンションを出た事は竜蛇も知っていた。 竜蛇は見張りは付けずに放っておくように命じ、涼に電話をかけたのだ。 ちょうど家を出たところだった涼は「俺の可愛い犬が散歩に出た。鍵を持っていないから、早めに行って外で待っていてくれ」との竜蛇の言葉に驚いた。 以前の竜蛇ならすぐに連れ戻させるか、尾行を付けただろう。 だが竜蛇は放置した。 必ず犬塚が戻ってくると分かっているのだ。だから組員ではなく、涼に犬塚を出迎えさせた。 「いいの? 外に出ちゃって」 思わず聞き返した涼に、竜蛇は笑みを含んだ声で答えた。 「構わない。ある程度は自由にさせてくれ。一緒に出かけてもいい。その時は護衛を付けるがな」 涼は犬塚と竜蛇は発展途上の恋愛中だと思っている。 竜蛇は犬塚をずっと閉じ込めて隠しておくつもりはないのだろう。 犬塚がありきたりな愛人みたいに部屋に囲われるような男ではない事は涼も理解している。 竜蛇が今後、犬塚との関係をどうするつもりなのか詮索はしないが、出かける事には賛成だ。 ずっと部屋に籠りっぱなしでは息が詰まるだろう。 涼は薬物治療の病院に放り込まれていた時、外に出たくてたまらなかったことを思い出していた。 「……犬塚さんはスーツって感じじゃないのよねぇ。それに組長のスーツだと脚長すぎるし。組長、モデル体型だからなぁ」 「……」 「あ。傷付かないでね」 「うるさい。涼、いったい何を……」 涼はクローゼットルームの中をゴソゴソと探して回っている。 「外に出るには犬塚さんの格好、酷過ぎるのよ。だからもう少しマシな服は無いかなぁって」 「は?」 「これが一番マシかぁ。まぁスポーツ青年に見えなくもないし」 涼はブツブツ呟きながら、竜蛇のトレーニングウェアを手にして振り返った。 「今日は出かけるわよ。これ着て」 涼の言葉に犬塚は目を真ん丸にして驚いた。 涼は「その顔可愛い」と笑って、持っていた服を犬塚に押し付けた。 犬塚は涼に渡された竜蛇のトレーニングウェアに着替えて、アンダーアーマーのフルジップパーカーを羽織った。 やはり裾は長かったので、涼は犬塚の前にしゃがんで裾を少しロールアップさせた。 「まだマシね」 涼はランニングシューズも見つけてきたようで、とりあえずこれを履くようにと犬塚に渡した。 犬塚は戸惑いながらシューズを持って、涼の後について玄関まで歩いた。涼はスマホでどこかに電話をかけて「出かけてきます。護衛よろしく」と短く告げた。 「おい」 「あ。護衛についてきてもらうの。後ろからこっそりだから、気にしないで」 涼はダウンジャケットを羽織り、黒のブーティーを履いて玄関のドアを開けた。犬塚も慌ててシューズを履いて出た。 「まずは服を買いにいくわよ。組長のお金だから遠慮しないでね」 「は?」 すっかり涼のペースだった。犬塚は困惑していたが、とりあえず涼に着いて歩き、エレベーターに乗った。 「組長からお出かけしてこいってお達しなの。犬塚さんも自分の服いるでしょ。組長とデートする事もあるかもしれないんだし」 「あの男とデートなんかしない」 「犬塚さん。ツンデレね」 「うるさい」 軽口を叩き合いながら、ふたりはエレベーターで一階まで下りてマンションの外に出た。

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