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変化1
その日の夕方、竜蛇は早く帰ってきた。
ちょうど涼は夕飯を作っており、犬塚は涼の隣でジャガイモの皮を剥いていた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「……」
こちらを見ようともしない犬塚の腰を抱き寄せ、その黒髪に竜蛇はキスをした。
「おい、邪魔だ。危ない」
「俺の服を着ているお前も可愛いかったが、その格好もいいな」
「うるさい」
「早く脱がせたいよ」
「うるさい。死ね」
「相変わらず口が悪いね。犬塚」
竜蛇は笑いながら犬塚から離れた。
「あ。セックスするなら、あたしが帰ってからにしてね。犬塚さん」
「うるさい」
涼は犬塚の「うるさい」は口癖だと気付いていた。照れ隠しや本当に鬱陶しいと感じている時、犬塚は仏頂面で「うるさい」と言う。
実はこれはブランカの口癖でもあるのだ。ギデオンがふざけた時など、ブランカは「うるさい」と無表情で返していた。
幼い犬塚は最初、喧嘩しているのかと思っていたが、長い付き合いのふたりにとって、当たり前になった掛け合いだった。
子供の頃、そんなふたりのやりとりを見ていた犬塚に、気付かぬうちに移ってしまったブランカの口癖だった。
竜蛇は部屋着に着替える為に自室に行った。犬塚は仏頂面のまま、ジャガイモの皮を剥いている。けれど竜蛇に監禁されたばかりの頃よりもずっと穏やかな表情だった。
自身のそんな表情の変化に、犬塚だけが気付いていなかった。
涼はシェパードパイと大根の和風サラダ、塩チャーハン、溶き卵の中華スープを作った。
「組み合わせがめちゃくちゃだ」
竜蛇の呟きに「たまにはいいじゃない」と、涼がニヤッと笑った。
涼は塩チャーハンの上にシェパードパイを乗せて一緒に食べた。
竜蛇は苦笑いでそれを見ていたが、犬塚も真似をして食べてみた。
意外と合っていて美味かった。
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