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香澄の闇2
「僕はね……初めてセックスした相手は父親だったんだ。12歳の時に」
「………」
雀野は小さく目を見張った。
「厄介払いのように親戚の家に養子に出されたけど、義理の父と義兄も僕を抱いた。それから……」
「香澄さん」
もう言わなくてもいい、というように雀野は香澄の華奢な手を握った。
「雀野さんも思う? 僕がみんなを誘惑したんだって。いつだって僕が悪いんだって、そう思いますか?」
「思いません。あんたは悪くない。男どもの欲望が悪いんだ。私は香澄さんを傷付けたりしません」
雀野は真摯な眼差しで香澄を見つめている。香澄は心の中で単純な男だと思ったが、表情には出さなかった。
「ありがとう。雀野さんは僕の味方でいてくれる? 僕はきっと死ぬまで、この娼館から出られない。誰かひとりでも味方になってくれるって言ってもらえたら………きっと耐えられるから」
「………香澄さん」
雀野は香澄の手を強く握った。香澄の細い指に、儚げな微笑みに胸が締め付けられた。
香澄は心の中で暗く笑っていた。
初めて父親に抱かれた時、そんな事を香澄は望んではいなかった。
痛みと羞恥。それに、父に裏切られたという引き裂かれるような思い。
それでも父を好きだった。
香澄は幼い頃から中性的で美しい顔立ちをしていた。
父は少し度がすぎるくらいに過保護で、母は呆れたように苦笑していた。変質者に攫われやしないかと、父はいつだって香澄を心配したものだ。
12の時、香澄は年上の幼馴染から告白をされた。
頬を赤らめて「香澄ちゃんが好きだ」と、その少年は初々しく想いを告げた。
香澄もその幼馴染に密かに憧れていた。あの夜は眠れなかった。
だが、幼馴染との関係を知った父に犯されたのだ。幼馴染とは放課後の帰り道に待ち合わせをして、手を繋ぐだけの関係だった。幼くて淡い恋だった。
『香澄が大事だからだ。誰にも渡したくない』
父はそう言って、まだ何も知らない香澄を抱いた。
それから香澄は幼馴染と別れ、もともと少なかった友人達とも距離を置いた。父の望み通り、父だけが香澄の世界になった。
ある意味、父とは蜜月のような時期だった。
そんな歪んだ関係が長く続くはずもなく………母は父を包丁で刺した。
香澄の目の前で。
母は精神病院行きになり、父は死にはしなかったが半身不随になった。
香澄はまだ子供だったので、父方の親戚の家に養子に引き取られる事になった。叔父は昔から香澄の事を可愛がってくれていた。
そして、14歳の時。義父となったはずの叔父は香澄を抱いた。2つ上の義兄もだ。
歪んだ関係は二年も続いた。
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