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香澄の闇4

あまりにも香澄にのめり込む弟を心配した兄が、弟の留守中に香澄を訪ねて来たのだ。 最初は冷たい眼差しで『いくら欲しい?』と言われた。金を渡すから弟と別れろと言うのだ。 『お金じゃない。僕はここで彼を待つだけで幸せだから。彼を愛しているだけです』 香澄は砂糖菓子のように甘い嘘の言葉を唇から紡いだ。 兄は何度か香澄に会いに来た。毎回、どうすれば弟と別れるのだと聞かれたが、香澄は別れないと答えた。 純愛に見えるように、健気に振舞ってみせた。 もう転々と男の元を渡り歩くのは嫌だった。それに誰かの家庭を壊す事も。 愛人として囲われるのが自分には合っていると思った。 だが、香澄の健気な態度は逆効果になった。 ある日、いつものように香澄を訪ねてきた兄は………香澄を強引に抱いた。 『弟と別れろ』『俺のものになれ』そう言って、香澄を犯した。 香澄は兄と弟、どちらが自分にとって都合が良いのか天秤にかけていた。 弟との蜜月を続けながら、兄と隠れた逢瀬を繰り返していた。 ついに隠しきれなくなり、兄との関係がバレた時、弟は狂ったように香澄を責めた。 そして、都心から離れた別荘に香澄を監禁した。右足のアキレス腱を切って、逃げられないようにして。 香澄はうんざりして、セックスの最中にわざと兄の名前を呼んでやった。激しい怒りで弟は香澄の首を絞めた。 そうだ。このまま殺せばいい。 香澄の人生は男達の欲に翻弄され汚れている。痴情のもつれで死ぬなんて、自分にはぴったりだと思った。 『………ごめんッ! ごめん! 香澄!!』 だが弟は香澄を殺せなかった。 『………殺していいよ』 『………殺せない。無理だ………愛しているんだ』 何度も愛していると言い、泣きじゃくりながら香澄を抱き締めたが、香澄の心は冷え切っていた。 そんな監禁生活も破滅を迎えた。 香澄の居場所を突き止めた兄が香澄を救いに来たのだ。兄と弟は憎み合い、殺し合うように殴り合った。 そして………兄は隠し持っていた包丁で弟を刺した。香澄の頬に飛び散った弟の血がかかった。 『ぃやぁあああ─────ッ!!』 香澄は絶叫して意識を失った。母が父を刺した場面がフラッシュバックしたのだ。 弟は酷い出血だったが一命は取り止めた。兄は錯乱しており、病院の個室に軟禁された。 そして、香澄は政治家の父親の命令で見知らぬ部屋に監禁されていた。 『とんでもない事をしてくれたな。この淫売め! お前如きが息子達を破滅させる気か!? どうやって息子達を誑かした?』 政治家は香澄に怒りをぶつけた。手酷くレイプされ、今度こそ殺されるのだと思った。 延々と犯され痛みも快楽も感じなくなって、香澄は『やっと死ねる』と、安堵する思いで目を閉じた。 次に目覚めた時、香澄は見知らぬ部屋のベッドの上にいた。 しばらくぼんやりと天井を見つめていると、扉が開いて男が入ってきた。 『やぁ。香澄だね』 美しい男だった。 金茶の髪に琥珀色の瞳。唇に微笑を浮かべた完璧に整った顔。手脚が長く、上質なスーツをモデルのように着こなしている。 だが、その美しい琥珀の瞳は蛇のように冷たく恐ろしかった。

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