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見えない鎖1
「犬塚さん。また組長のスウェット着てる」
翌朝、出迎えた犬塚を見て、涼は呆れつつ笑った。
「別にいいだろ。寝巻きだ」
「せっかく服買ったんだから、お昼は外食ね」
涼はそう言ってキッチンに入っていった。竜蛇は朝早くに出ていったので、今朝も涼とふたりだ。
朝食を食べたあと、洗濯や掃除を手伝って終わらせてから、犬塚は昨日買った服を着た。
デニムと黒のタートルネックだ。首輪が隠れる。
「犬塚さん。食べたいものは?」
「別に」
「昨日はあたしの好きなものだったから、今日は犬塚さんの番。ほら、なんでもいいから言って」
そう言われても犬塚は食に拘りは無いのだ。
少し考えていると涼は「エレベーターが一階につく前に答えなきゃ恥ずかしい罰ゲームね」と言って、エレベーターに乗り込んだ。
犬塚は慌てて涼を追いかけてエレベーターに乗った。
「おい。罰ゲームって」
「ほら、早くしないと」
涼はニヤッと笑って、一階のボタンを押す。エレベーターのドアが閉じた。
「ら、ラーメン」
涼に急かされて焦った犬塚の口から咄嗟に出た言葉だった。
「犬塚さんてラーメン好きだったんだんだ」
「………そうじゃない」
犬塚と涼は近場のラーメン屋に来ていた。涼はもやしたっぷりラーメン、犬塚は醤油ラーメンを頼んだ。餃子とビールも注文した。
「そういえばラーメンは作った事なかったわね。ごめんなさいね。今度作るから」
「別にいい」
「犬塚さんって、ひとり飯派っぽいよね。ラーメン屋なら、ひとりでも入りやすいしね」
「うるさい」
ふたりのテーブルに湯気を立てたラーメンが置かれた。
「はい。もやしと醤油と餃子ね」
「ありがとう。美味しそう!」
涼は瓶ビールをグラスに注いで、犬塚に勧めた。
「昼間っからラーメン屋でビールも乙なものね」
涼はグッとビールを喉に流し込み、美味そうに目を細めた。犬塚もビールを飲み、餃子に箸をつけた。
「組長とじゃラーメン屋に来る事無いわよねぇ。あの人が高級スーツでラーメン食べてるとこ想像すると、なんか気持ち悪いよ。似合わなさすぎて」
「………っ」
涼の言葉に思わず想像してしまい、犬塚は軽く咽せた。確かに似合わない。
「ラーメン食べたくなったら、あたしに声かけてね。付き合うよ」
「………そうするよ」
「あら。犬塚さん、今日はツンデレしないのね」
「………」
「素直な犬塚さんも可愛いわよ」
「黙って食え」
いつもの仏頂面に戻った犬塚は、顔を上げずに黙々とラーメンを食べた。
涼はニヤニヤと笑いながら、餃子を口に放り込んだ。
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