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見えない鎖2
その夜、竜蛇は遅くなるというので、晩飯も涼と二人で済ませた。
涼が帰ってから、犬塚は風呂に入り、いつものように竜蛇の部屋着を着た。
竜蛇の方が背が高く、モデルのような頭身をしている。竜蛇の部屋着は犬塚には袖も丈も少し長いのだが、犬塚は気にせずパンツの裾を折って履いていた。
今日、涼が部屋着も買うかと聞いてきたが、犬塚は必要ないと言った。
その言葉に涼がニヤニヤしていたので「部屋にいるだけなのだから、不便はない」と、犬塚はつっけんどんに言った。
本当は竜蛇の部屋着を着ていると、なんというか………落ち着く気がするのだ。
慣れというのは恐ろしい。
寝室には竜蛇の残り香を感じる。部屋着にもだ。
綺麗に洗濯され、部屋も掃除してあるが、竜蛇という男の存在をまざまざと感じた。ここは竜蛇のテリトリーなのだ。
犬塚はここで自由にしていいと許されている。涼も勝手知ったる様子に見えて、実は犯さない領域はきっちりと守っていた。
犬塚だけが全てを許されていた。
犬塚はその事実に最近になって気付き、なんとも言えない気持ちになった。
「………」
犬塚の行動の自由は少しずつ増やされている。
だが、犬塚の帰る部屋。眠る場所。
それらは強要されてはいないが、しっかりと刷り込まれており、竜蛇の寝室のベッド以外では眠る気にならなくなっていた。
この首輪に見えないリードを繋がれつつあるのだ。
その過程に犬塚はうっすら気付いていたが、もう抵抗する気はなかった。
深夜1時を過ぎた頃、竜蛇は戻ってきた。間接照明だけを灯した広い寝室で犬塚はソファに座り、竜蛇を待っていた。
「ただいま」
「………」
竜蛇は微笑を浮かべて、いつものように犬塚にキスをする。犬塚は薄く唇を開き、竜蛇の舌を出迎えた。
「ん………」
ひとしきり舌を絡ませあい、ちゅっと音を立てて離れた。
「シャワーを浴びてくる。先に眠っていても………っ」
犬塚が強く竜蛇の頭を引き寄せ、再び唇を合わせた。逃さないとばかりに竜蛇の舌を吸った。
竜蛇も犬塚の黒髪を鷲掴み、激しい接吻で応えた。
「………どうした?」
「別に………風呂なんか後でいいだろ」
竜蛇は「どんなお前でもかまわない」と言った。だがこの男はサドだ。嫌がる相手を責めて泣かせるのが好きなはずだ。
犬塚がセックスに対して積極的になれば、竜蛇の犬塚に対する執着心は薄れるのだろうか?
犬塚はふと、そう思った。
そして、そんな真似は許さないとも思う。
ここまで自分を変えておいて、竜蛇がもし犬塚に飽きる日がくるなど………
絶対に許さない。
そんな感情に犬塚自身が驚いていた。自分をごまかすようにキスをして、竜蛇の反応を伺った。
こんなふうに積極的に自ら誘えば、竜蛇は冷めるだろうか?
だが、犬塚の考えは杞憂に終わる。
「犬塚。本当にお前は、俺を煽るのが上手い」
「っ!」
薄明かりの中、竜蛇の琥珀の瞳が獲物を狙う蛇のような飢えた輝きで犬塚に狙いを定めた。
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