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誘惑2

佑月はこの娼館に来てまだ半年だ。 佑月の父親は家族に秘密で友人の借金の保証人になっていた。事業に失敗した友人は夜逃げをし、その借金は父親が被った。 どうにもならなくなった借金をひとまとめにしたのが蛇堂組だ。返済の為に佑月はこの娼館に売られたのだ。 容姿は並み以上だと自覚はしているし、佑月はセックスが好きだった。 我ながら快楽に弱く、流されやすい性格は男娼に向いていると思う。そのおかげで男娼とはいえ贅沢な暮らしが許されている高級男娼として引き取られたのだ。 儲けから親の借金と利息分とで一定額取られるが、それでも稼ぎは悪くない。 借金返済できた時の為に密かに金も貯めていた。 本音では誰か金持ちの客に見受けしてもらい、若いうちにこの娼館を出て行きたいと思っている。 今のところ、佑月を身請けしたいと願っているのは六十歳を越えた年配の金持ちだ。でも、できるならば若くて色男がいい。 竜蛇志信のような。 竜蛇は美しくて魅力的で、危険で、金も権力もある。佑月も男娼として売り出される前に一度だけ、竜蛇に抱かれた事がある。極上のテクニックで快楽に鳴された。 それっきりだ。 だが、香澄は……。 月に一度は竜蛇が通って抱いていた。この娼館のナンバーワンである香澄は竜蛇にとって特別なのだろうか。 「……むかつく」 佑月は部屋を出て買い物に出かけるところだった。組員に頼んだら違うものを買ってこられた。 「涼ならちゃんと僕の欲しいやつ買ってきてくれるのに」 ブツブツと文句を言いながら廊下を歩いた。男どもは化粧品はどれも同じに見えるらしい。 「あ」 廊下の向こうで香澄がうずくまっていた。無視して行こうかと思ったが、とりあえず声だけかけてみた。 「どうしたの?」 「ちょっと足が痛くて」 今まで香澄とはろくに挨拶すらしてこなかったが、ここ数日、香澄の方から佑月に声をかけてくることが増えていた。 佑月は気味悪く感じていたが、竜蛇が通ってこなくなった事で落ち込む香澄を見るのは面白かったので、今では雑談をするようになっていた。 「部屋まで肩を貸してくれない?」 「え~……ぼく、出かけるところなんだけど。誰か呼んで」 「ダメ。僕、揉め事起こしたばかりだし」 香澄が若い組員に襲われた話は聞いていた。 「あ~……もう、仕方ないなぁ」 佑月は香澄に肩を貸して、立ち上がらせた。佑月は香澄よりも頭半分ほど背が低い。身体つきも女に間違われるくらい華奢だった。 「もう、なんでぼくが……」 佑月はブツブツと文句を言いながらも、香澄を部屋まで連れて行った。 「寝室までお願い」 「図々しいんじゃないの?」 佑月は不機嫌な顔で靴を脱ぎ、部屋に上がった。さっさと放り出して買い物に行かないと。 寝室のドアを開けて、香澄を見上げた。 「ほら、さっさと……」 「佑月。いい匂いがするね」 「!?」 そう囁いた香澄が佑月の首筋にキスをしてきた。驚いてよろめいた佑月は香澄と一緒にベッドに倒れこんだ。 「いったぁ! 何するんだよ!!」 「ごめんね」 そう言いながら、香澄は両手両足を絡めてきた。体格差はあまり無いはずなのに、気付いた時には蜘蛛の巣に引っかかったように、香澄に押さえ込まれていた。 「なに? 何の冗談? 後で言いつけてやるから」 「冗談じゃないよ。ずっと可愛いと思ってたんだ。佑月のこと」 香澄が整った美しい顔に微笑を浮かべて言った。 「はぁ!? ふざけんな! 離せ!」 そんなに力があるようには見えないのに、跳ね除ける事ができない。香澄は唇を佑月の首筋に触れさせ、細い指を華奢な体に這わせはじめた。 「ちょっと!? どうゆうつもり!?」 「好きなんだ。佑月が。可愛い」 「ふざけんな!! 離せっ! はなっ……んんッ!!」 香澄に唇を塞がれた。舌が入り込み、すぐに濃厚な口付けをされてしまう。 「ん───ッ!! っ! ……んふぅ、んぅ」 佑月は快楽に弱い。 他の男娼達はお客の前で感じているふりをする事が多いが、佑月はどんなに嫌な客や醜い客相手でも抱かれれば本気で感じてしまうのだ。 佑月は無知で若いが、その快楽に素直な体質ゆえ、一気にナンバースリーに昇格したのだ。

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