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誘惑4
本当に単純な子供だ……。香澄は心の中で呟いた。
佑月はつい半年前まで大学生だった。
借金のカタに売られてきたが、泣き暮らすどころか、性に奔放なところがある佑月はポジティブに現状を受け入れた。
路上で客を取るよりマシだと、カラカラと笑っていた。
この娼館の客は金持ちばかりだ。若いうちに借金を返済し、金持ちに見受けされたいと、密かに野心も持っていた。
だが、心の隅では不安や寂しさを持っている。気ままな大学生から男娼に身を堕としたのだ。
不安があって当然だが、それを吐き出せる相手はいなかった。
そこを揺さぶれば簡単だった。
佑月は快楽に弱く、優しい言葉にも弱い。それに若くて馬鹿だ。
そのすべてが香澄にとっては好都合だった。
その日から佑月は香澄とこっそり逢瀬を繰り返すようになった。嫌な客に当たった後は香澄に慰めてもらった。
「大丈夫? かわいそうに……。がんばったね。佑月」と、香澄に優しく撫でられると泣きそうになってしまう。
まだ年若い佑月は甘やかされることに飢えていたのだ。香澄の言葉が全て嘘だなどと見抜けないでいた。
「……香澄」
佑月にねだられて、香澄は優しくキスをした。
「香澄は疲れてない? 眠い?」
触れてほしいくせに、佑月は香澄を気遣うように聞いた。そんな佑月に香澄は優しく微笑む。
「大丈夫。佑月は優しいね。好きだよ」
香澄の言葉に佑月は照れたように笑った。この「恋人ごっこ」に佑月は夢中だ。
香澄は佑月の服の中に手を入れて、小さな乳首を撫でた。
「あっ」
「可愛い声。気持ちいい?」
「……うん。気持ちいいよ」
この夜も佑月の快楽を優先して、香澄は奉仕した。佑月はうっとりと香澄に身を任せた。
……馬鹿な子。
香澄の心は冷え切っていたが、おくびにも出さなかった。
大切に想われていると錯覚させるように、毒のような甘さで優しく囁き続けたのだった。
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