139 / 151
甘い夜明け2
キスを解いた竜蛇の唇が、顎先から喉を伝い、耳朶を甘噛みした。
「……するのか?」
犬塚の色気のない言葉に竜蛇は苦笑して首筋に顔を埋めた。
「涼が来るまで、たっぷり時間はある」
「そうじゃなくて、いや、涼の前では二度とさせないが。昨夜、さんざんやっただろ……っ」
竜蛇の少し冷えた指が犬塚の脚の付け根を這う。犬塚の耳に唇を触れさせたまま、竜蛇が甘ったるい声で囁いた。
「いつだってお前が欲しいよ」
犬塚は背をゾクゾクさせながら竜蛇から離れて振り返り、その胸を押し返した。竜蛇は意外そうな顔で犬塚を見た。
「今はしない」
はっきり言い切った犬塚に、竜蛇は面白そうに目を細めて聞いた。
「なぜ?」
「昨夜やりまくっただろ。まだケツが痛いんだよ」
しつこく食い下がる竜蛇に苛立ったように犬塚が言い捨てた。この話は終わりだと、犬塚はキッチンを出ようとしたが、再び竜蛇に引き止められた。
「しつこい」
「わかった。挿れない。それならいいだろう?」
「は?」
竜蛇は犬塚を強く抱きしめて、背後から頬に口付けた。
「ほんの少し触れるだけだ。幸人」
竜蛇は小さな囁き声でねだり、スウェットの上から無駄なく鍛えられた犬塚の痩身を撫でた。
犬塚の背に密着して、その黒髪を食んだ。そして、耳の裏に柔らかく口付けて犬塚の匂いを深く吸い込んだ。
「……あんた、少しは俺のいうことも聞けよ」
我を通す竜蛇が気に入らないといった声音だが、犬塚の声は僅かに震えていた。竜蛇の手がスウェットを捲りあげて犬塚の胸を揉むように撫でた。
「いつだって聞いているだろう」
「どこが」
竜蛇は両手で犬塚の胸を揉みしだき、犬塚の足の間を割るように膝を入れた。「はっ」と犬塚の背が反る。
「貪欲なお前にいつだって応えている」
「うるさい……んぅ」
竜蛇は背後から犬塚の顎をとり、キスをした。文句ばかり言っていた犬塚だが、自ら舌を伸ばして竜蛇の舌に絡めた。
竜蛇とのキスは好きだ。鞭打たれることよりも、拘束されることよりも効果的に犬塚を無抵抗にしてしまう。
もっと欲しいと、そう願ってしまう。
ごくり、と犬塚の喉が鳴る。砂漠で飢えた旅人のように、貪欲に竜蛇の舌と唾液を求めた。
「……は」
そのまま犬塚を抱き上げてダイニングテーブルの上に仰向けに乗せた。スウェットを腕まで捲りあげて、軽く両腕を拘束するようにした。
犬塚は両腕を頭上に上げたまま、引き締まった裸体を竜蛇の眼前にさらしている。
「お前の体は綺麗だ。一切の無駄が無い」
竜蛇の指が皮膚の上から犬塚の筋肉をなぞる。犬塚は息を詰めて瞼を閉じた。
「体毛も薄くて、赤ん坊のように肌も綺麗だ。乳首の形も好きだ」
きゅっと犬塚の乳首を摘まれて、犬塚の裸身がぴくんと跳ねる。
「う、うるさい! やるなら黙って、さっさとやればいいだろう!」
「照れる必要はない。俺は事実しか言ってない」
「黙れ! あっ」
竜蛇の悪戯な指が犬塚のペニスに触れた。そこはすでに反応を示しており、ゆるく勃起していた。人差し指と親指で輪を作り、軽く上下に扱いた。
「ペニスも綺麗だし美味そうだ。食べてもいいか?」
「うるさっ、あ!」
竜蛇は舌を伸ばして、根元からべろりと舐めあげた。犬塚は切なげに眉根を寄せて甘やかな吐息を吐いた。
ゆっくりと咥えられてフェラチオされる。熱い男の咥内に鳥肌が立つ。
犬塚は無意識に腰を揺らめかせて、ペニスへの愛撫を更にねだった。
「……いやらしい子だ」
「あ、はぁ……う、うるさい」
「好きだよ」
「ああ……」
竜蛇は指で犬塚の乳首を愛撫しながら、ペニスをしゃぶった。
犬塚は淫らに痩身をくねらせて、息を荒げている。
竜蛇は犬塚の痴態に目を細めた。責め苛んで泣かせることも、優しく愛して鳴かせることも、どちらもたまらないのだ。犬塚の全てが竜蛇を惹きつけてやまない。
抗い続けてほしいと思うし、逆に全てを受け入れてほしいとも思う。
竜蛇にはふたつの欲望がある。
犬塚はその双方を煽るのだ。
ともだちにシェアしよう!