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Ⅱ:1

 弟と関係を持とうが、同室者と関係を持とうが、俺の世界は拍子抜けするほど変わりない。  何処かの漫画の様に突然男を欲しがる躰にもならないし、俺を抱いた上代に恋情を抱くこともない。上代もまた、変わらず美人の腰を抱き昼夜問わず甘い声を上げさせている。  けど、そうでなくては困る。  俺は決して、恋愛をしたくて上代に抱かれた訳では無いのだから。  ◇ 「紫穂ちゃん」  次の授業の準備に移っていると、廊下から鈴の音の様な声が俺を呼んだ。  その声に反応したクラスメートたちが“姫だ!姫だ!”と沸き立っている。俺はそんな騒ぎに振り向くことなく、一度重い息を吐いた。 (来やがったか…)  この学校で生徒会役員たちは雲の上の存在だと思われている。たかが美形集団だと言うだけで、だ。だからこそ例え相手が兄弟であっても無下には扱えない。  そんなことをすれば、明日から俺の世界は地獄と化すから。 「…なに?」  なるべく前と変わりない態度を心がける。  由衣から受けた行為に影響を受けているだなんて思われたくなかった。 「あのね、僕お仕事頑張ったんだ」 「うん?」 「だからね、久しぶりに手が空いたの」 「………」 「一緒に来てくれる、よね?」  俺を見上げる潤んだ大きな瞳に吐き気がした。  由衣の表情や仕草、視線の強さはいつもと変わらない。だが、そこには紛れもない欲が滲んでいた。俺は今までこんな気持ちの悪い視線を気付かずに受けていたのか…。 「紫穂ちゃん…」  日差しなど知らないとでも言いたげな由衣の白い指が、そっと俺の指先を握る。  その瞬間背筋に走る悪寒。 (一も二もなく、今すぐこの手を振り払えたなら…)  全く力の入っていない由衣のその手は、けれどもどんな力よりも強く俺を教室から連れだそうとした。でも… 「待て」  賑やかだった廊下は、凛とした声によって一瞬で静寂を取り戻した。 「兄さん」 「学校では先生と呼べと言っただろう」  呼び方を咎められるよりも前から、由衣の顔には難しい色が浮かんでいた。相変わらず二人は仲が良くないらしい。だがそんな由衣の表情など気にすることも無く、兄…諒はその長い脚で俺たちへと近づいて来た。

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